三菱自の不正を見抜けなかった国土交通省の責任は -曖昧な「燃費審査」-(2/2)
- 筆者: 渡辺 陽一郎
三菱自の帰責性は当然だが、見抜けなかった国土交通省の責任も問われるべき
そこで目を向けたいのが、燃費の計測方法だ。JC08モード燃費は「国土交通省審査値」とされ、国土交通省所管の独立行政法人・交通安全環境研究所の審査に基づいて、シャシダイナモメータを使って計測される。
ただし、この計測値をそのまま使うのではなく空気抵抗とタイヤの転がり抵抗を「走行抵抗」として測り、実走行に近づける補正を行う。燃費不正問題では、この「走行抵抗」の値を有利に設定して、燃費値を故意に向上させていたという。
記者会見では、走行抵抗の計測方法が、日本の法規で定められた「惰行法」ではなく、北米などで使われる「高速惰行法」であったと説明された。つまり根本的な計測方法から間違っていたことになる。
その上でデータの中央値を取るべきところを、走行抵抗の低い値を取ってシャシダイナモメータにインプットしていた。
冒頭で述べたように、不正を行ったのは三菱自動車で、そこに帰責性があるのは当然だが、国土交通省が見抜けなかったことも事実だ。型式認証制度の対象となる新型車の数は膨大だから、すべてを国土交通省、あるいは交通安全環境研究所が子細にチェックするのは困難かも知れないが、今となっては入念に確認すべきだった。
仮に三菱自動車が故意に基づく不正を行わなかったとしても、「惰行法」に基づくべき計測を「高速惰行法」で行う過失は生じていたことになり、「走行抵抗」が乖離するか否かという以前に、チェック機能を働かせる必要があった。
JC08モード燃費については、カタログの記載を見ても「国土交通省審査値」と併記されている。「製造メーカー届出値」ではない。実務的な計測方法はともかく、審査を行っているのは、あくまでも国土交通省だ。社会通念でとらえれば、審査した側の責任も問われるだろう。
見直すべき点の多い「燃費基準」
また燃費に関する課題としては、三菱自動車の問題からは離れるが、平成27年度/32年度燃費基準にも見直すべき点が多い。燃費基準はいずれも車両重量の区分と、それに応じたJC08モード燃費の数値を掛け合わせただけだ。
平成32年度燃費基準であれば、車両重量が741kg未満:24.6km/Lから、2,271kg以上:10.6km/Lまで、15に区分される。
制度の趣旨は、ボディが軽ければエンジンの負担も減るから燃費は厳しく、重ければ負担も増えて燃費も緩くなるというものだが、結果的には排気量の割にボディが重い車種が有利で、軽い車種は不利になりやすい。
だからミニバン、SUV、軽自動車は燃費基準を達成しやすく、セダンやクーペは、ハイブリッドとクリーンディーゼルターボ車を除くと難しい。これがそのままエコカー減税対象車にも当てはまり、売れ行きの明暗を分けて、軽自動車/コンパクトカー/ミニバンが売れ筋の市場を形成する原因のひとつになったと言っても過言ではない。
燃費基準の問題点はほかにもあり、車両重量の区分がボーダーにある車種では、グレードが上級化したりオプション装備を加えることでボディが重くなり、その結果としてエコカー減税の対象に入ったり減税率が高まったりする。
ボディが軽くなるのではなく、重くなって燃費数値も悪化させながら、減税で有利になっているのだ。
例えばインプレッサスポーツ2.0i-S(2WD)の場合、ノーマル状態では車両重量が1310kgで、JC08モード燃費は17.6km/Lになる。1310kgは平成27年度燃費基準の重量区分が1196~1311kgに該当し、プラス5%は18.1km/L以上になる。従って17.6km/Lでは減税対象に入らない。
ところがオプション装備を付けて車両重量が1320kgになると、JC08モード燃費が17km/Lに悪化するのに対応が変わる。1320kgであれば重量区分が1311~1420kgに変わり、平成27年度燃費基準プラス5%値の17km/Lをギリギリの同じ数値でクリアできるのだ。
要は装備を付けてボディが重くなり、燃費数値も悪化しながら、重量区分が変わったことで燃費基準値がそれ以上に緩くなり、減税対象に入る。これは明らかに矛盾だろう。同様の現象がいろいろな車種に見られる。
また今の燃費基準では、メーカーの軽量化の努力が報われない。車両重量が1600kgのLサイズセダンが、フルモデルチェンジでボディをアルミ化して1400kgに抑えても、車両重量が同等のミドルサイズセダンと比較されるだけだ。
「車両重量と燃費数値」という単純な要素だけでなく、車体の容積なども含めて、実情に即した燃費基準に改めるべきだ。
燃費基準や計測方法、審査・監督のあり方、そして税金・・・この業界には問題が多い
エコカー減税を含め、燃費をベースとしている自動車関連の税金にも問題が多い。
自動車取得税と同重量税は道路特定財源として設けられたが、今では一般財源化されている。課税根拠が消滅したのに徴税が続けられ、消費税が10%に高まった後も、廃止されるはずの自動車取得税が環境性能割税として実質的に存続しそうだ。このベースも燃費基準になる。
その一方で新車についてはエコカー減税で販売促進に貢献し、初度登録から13年を超えた古い車両には重税を課している。国と自動車業界が結託して税収と新車販売を保護し、古い車両のユーザーには増税を押し付ける構図だ。もはやすべてを見直す時だと思う。
燃費基準、燃費の計測方法、その審査と監督のあり方、環境対応に基づく自動車税制まで、抜本的に改めねばならないだろう。
「三菱自動車の燃費不正問題がなぜ生じたのか」
三菱自動車の厳格な内部調査を行うのは当然だが、そこに至った経緯まで視野を広げると、国や業界にも因果関係がおよんでくる。さまざまな観点からとらえるべき問題だと思う。
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