F1チームの屋台骨の存在が新チームの躍進に!ドライバーにも“エンジニアリング”(2/2)
- 筆者:
- カメラマン:本田技研工業/STINGER
日本人のレースエンジニアが新チームを強くした!
そしてもう一つの小松礼雄(あやお)エンジニアである。名前からして日本人であることは誰でも分かるが、この人、ただ者ではない。今年デビューしたアメリカの『ハースF1チーム』のチーフ・レース・エンジニアである。
2003年にホンダ・エンジンを搭載したBAR-F1チームでこの世界に入って13年目。今年40歳の小松エンジニアの仕事は、「レース戦略責任者」だ。
どのタイヤをいつ換えるか、というレース中の作戦だけでなく、金曜日に始まる走行で集めたデータやドライバーからのインフォメーションを解析して、1年間に21個所を巡るコース毎に最適な状態にクルマを仕立てる。その作業が、金曜日-土曜日-日曜日と、事前に計画した作業スケジュールに沿って進んでいるかどうかの管理もする。
F1は、ドライバーの腕だけで闘っているのではなく“チーム戦”。関係者の結束力がチーム力になって、ドライバーをフォローする。強いチームとは、ドライバーが速いだけでなく、マシンの性能がいいだけでなく“チーム”が強いのだ。
さらに、エンジニアの仕事の中であまり知られていない“ドライバーエンジニアリング”もこなす。平たく言えば、ドライバーを叱咤激励して、力を100%発揮させる仕事だ。小松さんは、チームのエースであるロメイン・グロジャンというフランス人ドライバーの強い誘いでチーム入りした。
2戦目にして3強入り!?
グロジャンは運転の腕前はピカイチだが、精神的な脆さがあった。不安な状況に追い込まれると落ち着かずにミスをしてしまう。しかし、去年まで所属したロータスF1チームで小松礼雄さんが自分の力を発揮するために欠くことのできない存在であることを認識し、チームに「アヤオを招聘してくれ」とお願いした。
新チームという不安材料もあって小松さんは悩んだが「新しいことをなんでもできる自由がある」チームに移籍することを決意した。
そして迎えた開幕戦、驚いたことに、新米チームのハースでロメイン・グロジャンは6位に入賞した。さらに続く第2戦で、小松エンジニアが練り上げた「スーパーソフト」→「スーパーソフト」→「スーパーソフト」→「ソフト」という奇襲とも言える作戦がズバリ的中!!グロジャンは自信を持ってミスなく57周を走りきって5位に食い込んだ。前にいたのは、2台のメルセデスとフェラーリとレッドブルが1台ずつだけだった。
ドライバーも、世界各国からの選りすぐりだけにシートが与えられるF1グランプリだが、エンジニアも、並の頭脳と決断力と集中力では勤まらない。その仕事を日本人がやってくれている。
「日本の関係者には、ご愁傷様と言ってます。だって、やってる方が大変なほど、観ている側は面白いですから」と伝えると、「そりゃそうですね」と。新チーム創りのために冬の間から睡眠時間は最大で4時間だったという小松礼雄エンジニアは、眠いはずの目をキラキラさせて言った。
ホンダのパワーユニットを搭載するマクラーレンも去年とは比較にならないレベルに進化して闘いに加わった。2016F1グランプリは、面白を加速して、今週末に第3戦中国GPを迎える。
[Text:山口正己]
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