【コラム】 海外偏重に陥った日本車の開発姿勢/渡辺陽一郎(2/3)

軽やミニバンは使い方のみならず、ユーザー心理まで研究して作り込まれている

ダイハツ ムーヴラテ

軽自動車は大半が国内向けの商品だから、ライバル同士が競い合うように日本のユーザーの使い方や心理を研究している。開発の過程では、日本人の生活感まで浮き彫りにされる。

2004年にダイハツから「ムーヴラテ」という軽自動車が発売された。開発者は「若い女性をターゲットにした」と説明したが、ムーヴラテは全高が1600mmを超える車内の広い軽自動車だ。「ファミリーではなく若い女性が対象なのに、なぜ背が高いのか」と開発者に尋ねると「背が高い方が、お客様同士でコミュニケーションを図りやすいからだ」と言う。

その真意を聞いて驚いた。2004年当時でも軽自動車の売れ筋は背の高い車種で、そこに適合させないとユーザーが気まずい思いをするとのこと。

例えば若いお母さんが子供を幼稚園まで乗せていく時、ほかの母親が使っているクルマもワゴンRやムーヴだったりする。そこで外観の足並みをそろえないと、自分とその子供が仲間ハズレにされる心配があるという。

ちなみに同時期に販売されていたミラジーノは、女性向けのダイハツ車でも背が低い。開発者は「ミラジーノのユーザーは、大半がキャリアウーマン。周囲の人達と乗っているクルマでコミュニケーションを図る必要はない」と語った。

「妻親近居」

日産 キューブキュービック

また、2003年に登場した日産のコンパクトミニバン、キューブキュービックの開発者は、「ミニバンでは『妻親近居』を重視して開発する必要がある」と言った。

「妻親近居」とは、妻の親が自宅の近所に住んでいることだ。男性が実家から離れた場所に転勤して、地元の企業に勤める女性と結婚する。となれば妻の両親が近所に住む。子供が生まれると、親子4名に妻の両親を加えて、ミニバンで一緒に出かける機会が生じる。

この時に運転するのは主に夫で、妻の父親に気を使うから、助手席に座らせて話をしながらドライブする。だから「ミニバンでは助手席の居住性が重要」とのことだった。

そして2列目には妻の母親と第1子、3列目には妻と第2子が座る。「兄弟や姉妹は喧嘩をするので、子供が3列目に並んで座ることはない」らしい。

ムーヴラテやキューブキュービックのような話は、国内に向けた車両開発の一端に過ぎない。日本のユーザーの生活を細かく観察し、使っている人達の気持ちを考えながら、そこに合った商品を開発している。

逆の例もある。とあるLサイズSUVの開発者と話をした時のことだ。

「従来型は女性のお客様に人気が高いが、男性にはウケが良くなかった。そこでフロントマスクを睨みの利いた造形に改めた」と言う。「こんなに大きなSUVが女性に人気?街中で見る限り、運転しているのは中年の男性ばかりですよ」と問い返すと「女性に人気が高いのは、もちろん北米の話です」と返答された。

別のメーカーのLサイズセダンでは、「セダンのユーザーは、路面の悪い道路でも飛ばして走る。だから新型は足まわりを強化した」と言われた。「今時、路面の悪い道路なんてありますか?」と尋ねると「あ、ロシアの話です」であった。これが、車両開発の実態だ。

日本向けのクルマは、妻の両親に気を使う夫の気持ち、若いお母さん同士の微妙な関係まで察して開発されている。そして海外向けは「もちろん北米の話です」という具合だ。これでは車種ごとの販売格差が広がり、日本向けに開発された軽自動車の比率が高まるのも当然だろう。

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渡辺 陽一郎
筆者渡辺 陽一郎

1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を心がけている。記事一覧を見る

樺田 卓也 (MOTA編集長)
監修者樺田 卓也 (MOTA編集長)

自動車業界歴25年。自動車に関わるリテール営業からサービス・商品企画などに長らく従事。昨今の自動車販売業界に精通し、売れ筋の車について豊富な知識を持つ。車を買う人・車を売る人、双方の視点を柔軟に持つ強力なブレイン。ユーザーにとって価値があるコンテンツ・サービスを提供することをモットーとしている。

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