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いよいよウインタードライブの季節が到来!

降雪地域以外の都市部でもスタッドレスタイヤに交換すべきタイミングといえるが、そんな中、「YOKOHAMAの最高傑作!」の誉れが高い話題の高性能スタッドレスタイヤ「iceGUARD5」の〝氷に効く〟秘密を探るべく、横浜ゴムの開発担当者への直撃インタビューを行った。

インタビュアーには、自動車メディアとしては異例といえる東京大学 大学院 工学系研究科 機械工学専攻 特任教授の草加浩平氏を起用。草加氏は元小松製作所のエンジニアということで、自動車やタイヤの基本的なメカニズムに精通。今回は、自動車評論家とは少し違った角度から、ユーザー目線で本質を鋭く追求する質問が飛び出した。

また、東大 大学院 特任教授でありながら、ひとりの熱血的なクルマ好きとして抱いた素朴な疑問についても忌憚なく質問してくれたので、YOKOHAMAの高性能スタッドレスタイヤの謎に迫ってみよう。

タイヤが吸った水は一体どこに行ったのか?

草加 浩平氏(インタビュアー)
東京大学 大学院 工学系研究科 機械工学専攻 特任教授

まずは自己紹介を。今は東大で先生をやっていますが、1977年に大学を卒業してから2002年までの25年、小松製作所でダンプトラックをはじめとするタイヤ式建設機械の開発等に携わりました。建設機械を通じて、タイヤもいろいろと研究した経験があります。また、ラリーにもコドライバーとして参戦していて、82年に東北のシリーズ戦でYOKOHAMAのドライバーと組んでシリーズチャンピオンを獲得したこともあり、YOKOHAMAのタイヤは印象深いものがあります。今日はいちユーザーとしての疑問も含めて質問させていただきます。

まず、「iceGUARD5」の開発のポイント、先代モデルから変えた部分、狙い、凝らした工夫について教えてください。

網野 直也氏
横浜ゴム・タイヤ技術開発本部

先代のアイスガードトリプルプラスに対し、やはりスタッドレスタイヤなので氷上性能を第一に上げていくのが狙いでした。さらに氷上だけではなく、環境貢献性能も重視しています。まずは安全第一が基本ですが、氷上での安定性は誰もが体感できてしまうレベルにほぼ達したので、そこから環境面にも特化するために転がり抵抗を低減。省燃費とロングライフに力を入れました。高い性能が長く維持されることも狙っています。

草加 浩平氏
東京大学 大学院 工学系研究科 機械工学専攻 特任教授

氷に効くというと、大別するとゴムに硬い材料を入れて氷の表面を引っ掻く効果によるグリップと、氷の上にあるミクロの水膜を吸い込んでグリップさせるのという2種類があると認識していますが、水を吸い込むほうを選んだ理由はなんですか?

網野 直也氏
横浜ゴム・タイヤ技術開発本部

弊社の検討においては、乗用車レベルのタイヤ接地圧力とゴムの硬さからすると、吸水ゴムを採用したほうがより効果的だと判断しました。路面と接触すると硬い物の周りは浮き上がってしまうので、かえってタイヤと氷の接触面積が減ってしまったのです。先代のアイスガードを開発する段階から、硬い混入物よりは吸水ゴムを優先させることを確認しておりましたので、柔らかいもので密着させることを狙いました。接地面に窪みができれば吸水作用も起こるという思想です。

橋本 佳昌氏
横浜ゴム・タイヤ消費財開発本部

乗用車よりも車重が重いトラック・バス用のスタッドレスタイヤでは、乗用車用より硬いゴムを使用しているため硬い物も使っています。
「iceGUARD5」に採用した「新マイクロ吸水バルーン」は、吸水バルーンの殻が氷を噛むことでエッジ効果を補完していますが、氷上グリップの向上は、水を吸う効果によるところが大きいです。
「新マイクロ吸水バルーン」の殻は、ピンポン球を小さくしたようなものをイメージしてください。中空の球状をしています。

草加 浩平氏
東京大学 大学院 工学系研究科 機械工学専攻 特任教授

「吸い付く」という部分でずっと疑問だったのですが、タイヤのトレッド面は本当に氷の表面にある水膜を吸い込んでいるのでしょうか?
あと、タイヤが吸った水は一体どこへ行くのでしょう?
単に水膜に穴を押し付けただけでは、穴の空間の中に水は入ってこないはずで、どういう吸い込む作用があるのでしょう?
吸った水はタイヤが一周する間に出なきゃいけないワケですが、それは遠心力なのか、あるいは別の力で出て行くのでしょうか?

網野 直也氏
横浜ゴム・タイヤ技術開発本部

実は我々もそこが気になって、タイヤがちゃんと水を吸っているのかどうか検証する実験をしています。おっしゃる通り、ただ穴を開けるだけでは水は吸いません。穴の中に入っている空気が出て行かないと水を吸えないと考えているのですが、穴を開けたところを親水性にするとより吸うようになるのです。
ゴム自体は撥水性ですから、穴が開いてるだけでは吸わないので、穴の中を水が馴染む素材にする必要があります。新マイクロ吸水バルーンの殻には親水性の素材を使っており、その効果で水に馴染んで吸っているのです。
あと、タイヤが回っている間に吸った水が逃げているのは事実ですが、その作用を数値的に解析するにはいたっておりません。

橋本 佳昌氏
横浜ゴム・タイヤ消費財開発本部

考えられるのは、やはり遠心力ですね。もし、吸い込んだ水がそのまま穴に入ったままであればグリップは落ちることになりますが、繰り返し実験をやってもグリップの数値は下がらないので、穴に水が入ったままではないことは確認できています。

草加 浩平氏
東京大学 大学院 工学系研究科 機械工学専攻 特任教授

なるほど。しかし、ザッと計算すると、たとえばクルマが時速60kmで走っているときに、タイヤが1回転するのが約0.1秒。タイヤの円周の10分の1ぐらいが路面に接触しているとすれば、路面に当たってから離れるまで0.01秒しかありません。0.01秒で水を吸って、あとの0.09秒で水を捨てる作業をしなければいけないワケですよね?
水がこぼれた場所にパッと吸水材をおいて、0.01秒で吸えるかというと、やはりちょっと疑問なんですよね。

網野 直也氏
横浜ゴム・タイヤ技術開発本部

タイヤの場合は、荷重がかかることによって水が外へ押し出されて逃げていくことになりますから、想像以上に瞬間的に水はなくなっていると思われます。水が押し出されることに加えて、細かい穴に水が入っていく。親水性なので接触したときに、さらに馴染む原理で吸水力が上がります。タイヤの荷重がかかって水が逃げ出したところに、さらに水を除去するワケです。

橋本 佳昌氏
横浜ゴム・タイヤ消費財開発本部

「吸い取る」というより「水が逃げていくところがたくさんできる」というイメージですね。ゴムの部分は撥水効果があって水を押し出しやすく、穴の部分は親水効果で水を誘い込みやすいため、結果としてタイヤと氷の間の水が逃げて接地性が上がるという原理です。
また、トレッド面に多数配置したサイプ(細い切れ込み)で氷路面の水を逃がすだけではなく、ゴム自身にも水の逃げ場所を設けて、タイヤと氷の接地面積を増やした、というイメージでもあります。吸水剤のように、化学的に吸うわけではありません。

草加 浩平氏
東京大学 大学院 工学系研究科 機械工学専攻 特任教授

なるほど! スポイトで吸うようなイメージではなかったのですね(笑)
そうすると、親水性の穴の中に空気を押し出しつつ水が流れ込み、穴が路面から離れると、中に溜まった水が遠心力で飛び出していく。 そういう考え方でいいんですね。 よくわかりました。