MOTAトップ ニュース/記事 特集 特別企画 社長に訊く~富士重工業株式会社 代表取締役社長 兼 CEO 吉永 泰之~

国沢光宏
Q
スバルは熱烈なファンが多いので、最初から厳しい質問になります。現行レガシィ以後「スバルは変わったな」という印象を受けます。
吉永社長
クルマが好きな方に支持して頂こうという方針は変わらないです。でもレガシィは一番大きな市場であるアメリカのお客様に「幅が狭い」とずっと言われ続けていました。アメリカでレガシィのユーザーに喜んでもらおうとすればボディを大きくするしかなかったのです。
国沢光宏
Q
よく解ります。けれどアメリカを向いた、というのは日本のスバルファン全てが感じたことです。日本を諦めた、とまで思っている人までいます。
吉永社長
現行レガシィの企画をしているときは世界規模で車種展開を考える戦略本部長でした。ずっと国内販売を担当してきたため、車幅を広くしたら日本では厳しいな、と解っていました。そういった意味では日本を諦めたと言われても仕方がないかもしれません。さらに軽自動車の生産を止める、なんてことも同時にやりました。
国沢光宏
Q
軽自動車の廃止もスバルファンからすれば不評です。そのあたりでスバルファンの不満は頂点に向かいます。
吉永社長
スバルの生き残りを考えた大きな戦略の一環なんです。アメリカを拡充して収益を確保し、軽自動車の開発を止め小型車の開発に人員を回す。ということを同時期に決めているんです。結果、7年掛かっていたインプレッサを4年でフルモデルチェンジ出来ましたし、トヨタとの共同開発車も造れました。
国沢光宏
Q
結果的に吉永さんが立てた”戦略”は大当たりし、アメリカで大成功しました。でも国内のスバルファンは今でも納得していないと思います。
吉永社長
国内はどうでもいいということでなく、順番に行こうという計画なんです。まず業績の良いところを伸ばし成功すれば、次に国内も力を入れられます。逆の手順は難しいですから。それくらいスバルの状況が厳しかったんです。
国沢光宏
Q
アメリカを拡充し、その後、日本などに考えた商品を出していく、というビジョンは今まで聞いたことがありませんでした。少し身を乗り出します。
吉永社長
私が中心になって作った計画によりレガシィは大きくなるし、軽自動車の生産を止める事で、国内が非常に厳しくなることは解っていました。だから「厳しい戦力を考えたおまえが国内を担当して責任を取れ」ということで現行レガシィを発売した時点で国内営業本部長になりました。
国沢光宏
Q
吉永さんの予想通り2009年に出した現行レガシィの売れ行きは伸び悩みます。私も酷評して思い切り足を引っ張ったかもしれません。
吉永社長
厳しい戦略だという予想は見事的中します(笑)。同時に国内の販売責任者でしたから凄く苦労しました。ディーラーさんからレガシィの車幅を元に戻してくれ、というリクエストをたくさん頂いたほどです。でもそんなことは出来ません。じゃ値下げして欲しいということになります。でも値下げしても販売は厳しいでしょう。完全に追い詰められたんです。
国沢光宏
Q
結果的に起死回生の一手がアイサイトになるのですね‥‥。
吉永社長
先ほども説明した通り2010年3月の時点で追い詰められちゃってるんです。再編によって国内のディーラーを10%閉店。赤字は止まったんですけど、レガシィの先が厳しい。みんなで話合った結果、幅は変えられないからアイサイトで勝負しようということになりました。
国沢光宏
Q
私はアイサイトの前身に当たるADAの頃から応援してたんですが、開発担当者に「社内では認められず厳しい立場にある」という話をたくさん聞きました。本格的な導入は吉永さんが決めたんでしょうか?
吉永社長
私も強固な反対派でした。2010年3月時点で「絶対売れない!」とディーラーの皆さんの前で公言していたほどです。しかし副本部長の2人が「とにかくアイサイトを試して欲しい!」と群馬の研究所に連れて行かされ乗せられました。すると「あれ?これはいいぞ!」と。
国沢光宏
Q
ということは発表直前までアイサイト反対派の親分だったんでしょうか?
吉永社長
(キッパリ)そうです! 手応えを感じた時も黙って帰ったほどです。土日にジックリ考えた結果「他に手が無い」と思いました。週明けに戦略を発表する機会があり、その時に私は「アイサイトで行こう!」と檄を飛ばしたんです。回りの人間も唖然としてましたね。先週と全く違うことを言ったんですから。酷い話です。(大笑)。
国沢光宏
Q
アイサイトの導入の話はいろいろ聞いてましたが、真実を初めて知りました。
吉永社長
半ばヤケクソになって決めたんです(笑)。そうしたら次に国内販売から「そこまで言ったなら20万円じゃなく10万円にして欲しい」とプレッシャーを掛けられた。もうアイサイトに賭けちゃってますから行くしかない。役員会議で値下げを提案したところ、手ひどく拒否されました。2週間後にもう一度強行に提案し、何とか了解をもらい本格的に動き出します。
国沢光宏
Q
それまでレガシィのTVCMはカッコ良いグランドツーリングの絵柄でした。イメージ戦略の変更も不評だったように思います。
吉永社長
イメージ戦略は変更は不評でした。レガシィのCMは定番のタイプとアイサイトの2本を作る予定だったのですが、退路を断ってアイサイトだけにしろ、と強行したんです。それで社内の雰囲気がガラリと変わりましたね。危機感を持ってくれた。その結果、石田ゆり子さん出演の“驚き”CMになりました。

1

2

次へ

次のページへ

「社長に訊く」バックナンバー