スバル 「XVハイブリッド」生産ライン見学レポート/マリオ高野(2/2)
- 筆者: マリオ 高野
“他とは違う”独自性が今も保たれている
矢島工場では第5トリムと呼ばれるラインを見学。トリムというのは、サスペンションやパワートレーン、内装など様々なモジュールパーツをボディシェルに取り付ける工程のことで、アンダーボディのスポット溶接をしていた自分にとっては、花形の工程といえます。
ラインにはレガシィシリーズ、エクシーガ、フォレスター、インプレッサがランダムに流れており、単一車種ラインの経験しかない自分にとっては、難易度の高さを実感しました。
今回はXVハイブリッドにメインバッテリーが搭載される工程と、そのバッテリーから駆動モーターに電流を送る高圧電流用のケーブルが車体の裏側に配置される工程を見学しました。普通のクルマには付かない、ハイブリッドカーならではの工程ということで、特殊技能と知識を備えた専門の工員が作業します。
今は販売が好調なので、昼夜二交代制+残業でフル稼働しているようですが、工員の皆さんは追い立てられるような気配はなく、比較的落ち着いて作業にかかっているという印象を受けました。おそらく熟練度が高いのでしょう。自分がスポット溶接をしていた時を思い出すと、自分の熟練度が低いうちはとにかく時間に追い込まれて常にタジタジだったものです。
また、スバルではトヨタが考案した「カンバン方式」と呼ばれるパーツ管理体制をとっていなかったことも、工員が過度に追い込まれない要因のひとつになっているかの知れません。トヨタとの提携が強まって数年経ちますが、スバルは今も独自性が保たれていることを実感。
自分がスポット溶接をしていた2000年頃のダイハツではトヨタ流のカンバン方式を採用しており、工員の手元には常にパーツがギリギリの数しかなく、肉体的にも精神的に追い込まれる大きな要因となっていました。
もし再び自動車工場で働くとしたら、カンバン方式ではないラインが良いです。
さらに印象的だったのは、スバルのラインには、作業中にミスや不具合が出た場合に対処してくれる「保全マン」の数が圧倒的に少ないこと。かつて自分が作業をしていた現場では、何か問題が発生すると自分では対処せずに保全マンを呼ぶことを義務づけられていましたが(期間工員だったせいもあるでしょうが)、スバルではトラブルに対処して自分で解決するスキルを持った工員が多いという印象を受けました。
会社の規模の問題もあるのでしょうが、“他とは違う”と実感させられる事例のひとつであります。
そして、パワートレーンの組み付け工程はスバリスト的にもっとも感動するシーンと呼べるでしょう。エンジンとミッション、フロントアクスルのモジュールをボディとドッキングさせる工程ですが、水平対向エンジンとシンメトリカルAWDのパワートレーンはビジュアル的に秀逸なので、機械としての純粋な美しさに目を奪われるのです。重量バランスが良いせいか、やはり横置きの直4ユニットなどより安定感があり、作業性も良さそうに見えました。スバリストなら、いつまで見てても飽きない工程といえます。
リアデフの駆動ノイズを〝耳〟で聞き分けながら微調整を加える!
続いて、矢島工場からクルマで数分の距離にある大泉工場へと移動。ここではエンジンとミッションが製造されます。特殊な金型に約740度の高温で溶かされたアルミを圧入するダイカスト工程は大迫力で、ミッションケースのような大きなパーツの成型でも2秒未満で圧入が完了し、約90秒程度で固まるのです。
スバルは、1965年に発売したスバル1000の時代からアルミブロックのエンジンを採用していたので、ダイカストの老舗であるともいえます。工員の皆さんが熱くて大変そうですが、もし就業するならこのダイカスト工程が良いと思いました。
成型されたパーツのバリ取りは、初期段階では機械が行いますが、最終的には人の手で行うので、ひとつひとつ丹念に磨き込まれる様子に感動しました。バリ取りだけでなく、水漏れチェックも熟練工の目で一基ずつ確認されます。
エンジンのパーツは、水平対向ゆえに常に左右2つのラインが存在するところも、スバリストの悶絶ポイントです。バリ取りなどが済んで磨き上げられたエンジンブロックが積まれたパレットもまた、それだけで芸術性を感じさせます。
大泉工場では、ミッションやデフなどのギアも製造されます。AWD車が主力のスバルの場合は、ギアの点数が多いクルマが多いワケですが、それゆえに「歯あたり」と呼ばれるギア同士の噛み合わせを修正する職人技が光る工程といえます。
この記事にコメントする