マツダ CX-5 デザイナーインタビュー/マツダ チーフデザイナー 中山 雅(3/3)
- 筆者: 森口 将之
- カメラマン:オートックワン編集部
デザインは、破天荒なぐらいがちょうどいい
AO:インテリアはどんな考えでデザインしたのですか。
N:グローバルで通用するインテリアがテーマだったので、欧州車の品質レベルに負けないという気持ちで挑みました。これはエクステリアの「骨格」に対応する戦略でもあります。
これまでのマツダのインテリアは、デザインは良かった。でもインテリアにとって、シェイプはそんなに関係がないと自分では思っています。運転に支障がある造形はかえって煩わしいし、水平垂直が分かりにくいものは運転しにくいからです。だから形に凝るより、質感を高めるように心がけました。
カラーは国内は黒だけですが、赤と黒のツインカラーステッチを入れたりしています。カラー担当が何年も暖めていたテクニックを、勇気を出して実現しました。海外向けには明るい色も用意していますが、こちらでは体が触れる部分に明るい色を持ってきたり、こだわりを出しています。
AO:マツダにとってこのクラスのSUVは久しぶりですね。
N:このクラスのSUVが世界中で伸びているのは知っていました。またアメリカでは先代マツダ3(アクセラ)がヒットしていて、全世界でも200万台以上が売れていました。デザインと走りが人気の理由だったようで、日本車としては年収の高い層に売れていたそうです。
でもこの人たちが次に買うクルマがなく、他のブランドのコンパクトSUVに流れてしまっていたのです。だからこそキャッチャーミット目がけて投げるような、確実性の高いSUVデザインを心がけました。
ライバルで気になったのは、開発当時はまだ関係が強かったフォードのクーガと、フォルクスワーゲン・ティグアンです。上のクラスになりますが、アウディQ5も見ていました。もちろんインテリアのクオリティを含めての話です。
日産ジュークですか?開発の途中で出てきたクルマですが、路線が違うというか、カッコ良さの種類が違うと思っています。CX-5は正統派の2枚目を狙ったつもりですが、ジュークは違う方向を向いているのではないかと考えています。
AO:ところで中山さんにとって、イマジネーションがふくらむ瞬間はどんな時ですか。
N:クルマのことを考えているときは、クルマのアイディアが浮かばないですね。私は1989年に入社した年にデビューしたての初代ロードスターを買って、今でも持っているのですが、ロードスターをメインテナンスしているときは、クルマのことは考えないものです。逆に自宅の庭で芝刈りをしているときなどに、発想が出てきたりします。
魂動もクルマではない部分から生まれた発想ですから。あまり特殊な状態で生まれることもなくて、普段の生活の中でひらめくことが多いですね。
とにかく意識していると出てこないものです。だから会社で一生懸命考えていても、なかなかいいデザインは思い浮かばないものです。サラリーマンがこういうこと言っていいのか分かりませんけれど。
AO:最後にカーデザイナーを目指す若い人に向けて、メッセージをお願いします。
N:カーデザインの世界は、昔に比べると人気がないような感じを抱いています。そもそも日本ではクルマが興味の対象ではなくなってきているし、どこの会社も同じようなデザインになっていて、バッジを外すと分からないぐらい、没個性になってしまっています。
高度なマーケティングリサーチを元にものづくりを進めなければならないという理由もありますが、とにかくやることが決まってきているのです。だから大変だと思うし、つまらないと感じるかもしれません。
そんな状況を踏まえた上で言いたいのは、子供の頃に感じた想いを実現するために、デザインを手段として使ってほしいということです。会社に入るといろいろなことを学ばされ、それが消え去りそうになるかもしれないけれど、それでも自分の想いを信じ続けることが大切です。
いまさら優等生的な形を提示しても、受け取る側はつまらないと思うでしょう。多くのクルマがこわれないし、良く走るわけだし、デザインぐらい破天荒なぐらいがちょうどいいのではないでしょうか。素直に表現した人が勝ちだと考えています。
中山 雅プロフィール
1989年 マツダ株式会社入社 デザイン本部配属 インテリアデザインを担当。2000年 インテリアデザインスタジオGr主任。ここでデミオ、RX-8などを手掛ける。その後、マツダ欧州R&Dセンターへアシスタントチーフデザイナーとして赴任。デザイン企画推進室主幹、デザイン戦略スタジオ チーフデザイナーを経て、2009年にはCX-5担当チーフデザイナー、2010年にはコンセプトカー「マツダ勢」担当チーフデザイナーなどを歴任。現在に至る。
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