マツダ デザイン本部長 前田育男 インタビュー(2/3)
- 筆者: 森口 将之
- カメラマン:オートックワン編集部
景色を作る一員としてのあり方が大切
AO:日本人のトップとして、前任者のヴァン・デン・アッカー氏と変えた部分はありますか。
M:そこはあまりないですね。フォードといっしょにやっている時期が長かったので。ただ彼は、日本に来て、日本の文化に触れて、いろいろインスパイアされて、それが作風に出たりしたんですが、僕は日本人なので、表面的な日本文化の面白さではなく、本質を突きたいというのはあります。
最近は韓国のブランドが伸びているし、中国では今後何十っていう自動車ブランドが出てくる。その国のパフォーマンスがそのまま価値につながる時代です。だからメイド・イン・ジャパンはすごく重要です。マツダである前に日本製であると。
そのためには日本が尊敬されないといけないですね。それが前提としてあって、その上にマツダがある。だから数年前よりも日本を意識するようになりました。韓国や中国と比べれば 我々の方が自動車の文化は長いですから、そこは生かしたいですね。
AO:自動車はヨーロッパで生まれたものですから、日本的なものを織り込むのは難しいと思うんですが。
M:クルマの骨格や本質は、ヨーロッパの会社が作っていきました。それはベースとして持たないといけない。その上に被せていく日本らしさは、センスだけなんですよね。スタイルを乗せようと思っても乗っからない。それは敢えてやろうとは思っていません。
だから美意識の根幹にあるものが何かを、一生懸命スタディしているんです。たとえば凛とした雰囲気。極限までいろんなものを整理して、完璧なバランスで作ったときに初めて感じる空気感があると思うんですけど、そういうところじゃないかと思っています。和のデザインだからいきなり和紙が出てくるとか(笑)、そういう世界はナンセンスです。
コンセプトカーのシナリも、そこはすごく狙っていて、我々は表面の立体の質感と呼ぶんですけど、かなりの精度でコントロールした立体造形を作ったつもりです。通常、これだけ暴れた面構成だと、ダイナミックだけど緊張感は薄れていくんですが、逆にピリッとしたところが前に出るようにコントロールしたつもりです。
AO:魂動の中における、自然の位置づけはどうなのでしょうか。
M:理想としては、自然界のアスリートみたいなモノを狙っているので、鉄の箱が走っているよりも、動物が走ってくれるほうが自然ですよね。クルマというのは残念ながら、まだまだ自然に溶け込んでいない。でも世界中のクルマの台数を考えると、環境に与える影響はすごい大きいんです。だから景色を作る一員としてのあり方が、大切かなと思っています。
ラインの取り方ひとつとっても、自然界にないものは逆に人工的に見えるんです。それが工業デザインとしての未来感を訴求する場合もあるんですけど、我々は逆に、オーセンティックであっても、ナチュラルな方向に持って行きたいと思っています。
冷たい金属を柔らかく、暖かそうに見せることも研究テーマです。人間が触ってみたくなるカタチです。単純な造形ではこうは見えない。張りとかボリュームとか、動物が持っているものにリンクしていないと、生き物に見えないんです。
AO:チータをモチーフにしたスケッチが多いようですが。
M:自然界のアスリートから学ぶことがすごく多いので、クルマを描かせる前に、チータの絵を描いてもらったんです。描いているうちに、なぜこの動物が高速で走っているシーンが美しいのかが分かるので。
彼らが走る目的はシンプルで、獲物を捕らえることです。それ以外は寝ているんです。走る時はターゲットにロックオンされている。顔はこういう方向、目はこういう方向を向いている。シナリはそこを目指したんです。
ひとつひとつの軸がどう向いているかも大切です。たとえば高速コーナリングでは、顔は必ず立っていて、獲物の方を向いている。そういう軸を意識できるような骨格を作ろうと思っているんです。実際にはクルマのパネルを取っても軸が出てくるわけじゃないんですけど、それが感じられる骨格創りを目指しています。アスレティックなクルマの骨格の本質的な部分だと思っています。
スカイアクティブとの関連も、ここにあります。どちらも原点に返り、本質を目指していて、その考え方、志みたいなところでつながっている感じです。
AO:都会に住んでいると、自然はなかなか目にできないですが。
M:実は登山が趣味なんです。日本中の各地域の高い山は全部制覇しています。20代の頃、アメリカのカリフォルニアに4年間駐在していた頃に、カナダの高い山にけっこう登ったんですが、それで病み付きになりました。登山をやっていると、自然と一体になるんです。デザインに生かされているか分からないですけど。
アメリカにいたときには、アリゾナやユタのあたりのナショナルモニュメントパーク、国立公園もほとんど回りました。グランドキャニオンも、下まで降りるルートがあって、標高差1200mぐらいあるんですけど、それを1日で降りて、また登ってきたら、現地の人がビックリしていました。
ただ一番の趣味は何かと聞かれたら、レースです。スタートの瞬間の集中力と緊張感と、リラックスしたところの微妙なバランスとか、好きですね。漫然と平和を楽しむというよりは、何かに立ち向かう瞬間とか(笑)。でもデザインも挑戦ですから、共通項があるかもしれないですね。
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