クライスラー イプシロン試乗レポート/渡辺陽一郎(2/2)
- 筆者: 渡辺 陽一郎
- カメラマン:オートックワン編集部
基本部分は「フィアット500」と共通化
プラットフォームやエンジンなどの基本部分は「フィアット500」と共通化され、エンジンは直列2気筒8バルブのターボだ。排気量は875cc。「フィアット500ツインエア」と共通になる。
ノーマルモードとエコモードでは出力特性が異なり、ノーマルモードであれば最高出力は85馬力(5500回転)、最大トルクは10.2kg-m(2000回転)で、この数値も「フィアット500ツインエア」と同じ。ターボの装着により、1.2リッターのノーマルエンジンと同等の動力性能を得ている。
アイドリングストップを行うスタート&ストップシステムも採用し、JC08モード燃費は19.3km/L。「フィアット500」に比べると、車両重量が50kgほど重いこともあって数値は2km/Lほど下がる。日本車でいえばアイドリングストップを持たない1.3~1.5リッタークラスだが、輸入車の中では優れた数値だ。
エンジンは低回転域から十分な駆動力を発揮して扱いやすい。高回転域の吹き上がりも悪くはないが、回転の上昇にしたがってノイズが高まる。2000~3000回転付近が得意な領域で、アクセルを踏み増せばターボの過給が即座に立ち上がって運転がしやすい。
注意したいのは5速AT。MTをベースにしたシングルクラッチ方式だから、アクセルを深めに踏んで漫然と加速すると、車両の動きがギクシャクしやすい。変速に時間を要するため、車速の伸びが一時的に滞り、この時に減速感が生じてしまう。
同じ特徴がフィアット500にも当てはまるが、穏やかな加速を心掛ければ、さほど気にならない。変速のタイミングを見計らってアクセルを緩め、変速を終えたら再び加速という運転の仕方もあるが、基本は穏やかに走らせることだ。
スポーティーに走る時は、シフトレバーを前後に動かすマニュアル操作を活用。普通のMT車を運転するように、変速時にアクセルを戻せばギクシャク感を抑えられる。マニュアル操作が基本のATという見方もできるだろう。
アイドリングストップは、発進時の再始動に要する時間がわずかに長く感じられ、再始動時のノイズも小さくないが、不満を抱くほどではない。
タイヤサイズは、ゴールドの15インチに対し、プラチナでは16インチ(195/45R16)になる。低速域では少し硬い印象だが、ホイールベースが2400mm以下のコンパクトカーとしては快適だ。路面の細かなデコボコを吸収して、ボディサイズの割には重厚感も伴う。「フィアット500」では前後方向の揺れが気になるが、イプシロンでは解消されている。
コーナリング時にはボディの傾き方が少し拡大するが、4輪の接地性は相応に保たれ、走行安定性の不満も感じない。
個人的な話をすると、最近は日本のコンパクトカーを試乗する機会が増えた。居住性が優れ、燃費性能も向上したが、さまざまな面で質の低下を感じる。コストを抑えねばならず、同時に燃費数値にこだわるためだ。タイヤの指定空気圧は、転がり抵抗の軽減を目的に、異常なまでに高められている。
コンパクトカーながら、価値観の違いが実感できる
このような日本のコンパクトカーの運転感覚が体に染み付いた状態で、イプシロンを試乗すると、クルマはバランスが大切なのだと改めて気付く。行き過ぎたエコカー減税の市場に与える影響が、日本車を歪めてしまった。
そこに疑問を持つクルマ好きにとって、イプシロンは気になる存在だろう。リアシートは狭く、荷室の機能に特徴はない。ATの操作にも気を使うが、乗り心地は快適で、クルマを運転している実感も強く味わえる。
フォルクスワーゲンのポロに比べると、さまざまな実用機能においてイプシロンは下まわるが、内外装のデザインは上質で楽しい。ポロと日本車の価値観はかなり近いが、イプシロンはクライスラーブランドでも本質はランチア。小さなクルマでも、価値観の違いを実感できる。
日常的な移動の中で味わうイタリア車の情緒。平凡な毎日が少し楽しくなるクルマだと思った。
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