日産が取り組む協調ITS技術

  • 筆者: オートックワン 編集部
  • カメラマン:オートックワン編集部
日産が取り組む協調ITS技術
インフラ協調ITSのデモンストレーションに使用した日産車 「一時停止規制見落とし防止支援システム」事例 「一時停止規制見落とし防止支援システム」 道路上の光ビーコン 設置例 「一時停止規制見落とし防止支援システム」 交差点の一時停止表示 「出会い頭衝突防止支援システム」画面表示例 「出会い頭衝突防止支援システム」事例 「出会い頭衝突防止支援システム」画面表示例 道路上の光ビーコン 設置例 「信号見落とし防止支援システム」画面表示例 画像ギャラリーはこちら

ITSは、近未来の絵空事なんかじゃあない

インフラ協調ITSのデモンストレーションに使用した日産車

クルマに興味があるなら、一度は「ITS」という言葉を聞いたことがあるだろう。産官学民、つまり国土交通省や警察庁などの関係省庁と、自動車メーカーなどの企業や業界団体、大学などの研究機関らが取り組むもので、Intelligent Transport Systemsの略である。「高度道路交通システム」という意味だ。

その言葉尻だけ受け取ると、なんだか随分と難しい話というか、モーターショーや博覧会で見るような「近未来」という名の、でもいつ実現するかも良く分からない絵空事のようにも思えてしまうものだ。

しかし実際には、カーナビゲーションへ交通情報を送る「VICS」、高速道路の自動料金収受システム「ETC」、路線バスのバス停で見かける接近情報「バスロケーションシステム」、交通情報を発信する「道路管制情報」、あるいはスバルの「ぶつからないクルマ」に代表される安全装備の数々。

いずれも早くから実用化され、その多くが広く一般へと普及して久しい。これらは全て、立派なITSのひとつとして挙げられる。そう聞くとITSとやらも、だいぶ身近な事柄に思えてくる。

確実に我々の生活へと溶け込み始めているITS。今回編集部では、日産自動車のITSを用いた安全運転支援に対する取り組みについて取材することが出来た。

乗車中の死亡者数は激減したが、歩行者が絡む事故数はなかなか減らない

交差点の一時停止表示

少し前のニュースだが、平成22年の交通事故死亡者数が、ピーク時(昭和45年)の3割以下に減ったというのを覚えている方も多いだろう。これで10年連続の減少傾向となっている。

その理由が、主に自動車の安全性能が格段に上がっているから、というのはその内訳を見れば分かる。数が大幅に減少しているのは、主に自動車乗車中の死亡者数だからだ。平成22年では全体の32.9%が占めており、いっぽうで歩行中の死亡者数は35.2%でTOPとなっている。これに自転車乗車中(13.5%)や原付乗車中(7.4%)を加えれば、その割合は全体の半数を超えてしまう。歩行者保護性能の向上など、自動車側にもまだまだやれることはあるとはいえ、クルマ対人、クルマ対自転車となると、安全性能の向上だけでは限界がある。

そこで考えられたのが、日産や警察庁、カーナビメーカーや交通管制インフラメーカー、通信端末メーカー、さらには一般ユーザーなどと協調したITSの取り組み「SKYプロジェクト」だ。

SKYプロジェクトとは、Start ITS from Kanagawa,Yokohamaの頭文字を取ったもので、日産の本拠地がある神奈川県横浜市で2005年より実証実験が行われた。一般の交通環境を用いた実験で、歩行者対策に加え、渋滞による経済損失、エコドライブなどについてもそれぞれ検証されている。なお同様のプロジェクトは、トヨタやホンダ、マツダでも各地で実施しているところだ。

交差点事故防止の取り組みを世界で初めて実用化

「一時停止規制見落とし防止支援システム」事例「一時停止規制見落とし防止支援システム」

日産ではSKYプロジェクトの実証実験結果を踏まえ、既にドライバーの安全運転を補助する仕組みの市販モデルへの導入を行っている。例えば、車載のカーナビを用いた渋滞情報のプローブ情報提供システムや、スクールゾーンでの速度超過時に減速を促す表示・音声案内などはその一例だ。

そしてこの7月より本格稼動となったDSSS(次世代安全運転支援システム)が、今回紹介する「交差点事故防止」の仕組みだ。路上のVICS光ビーコンを車両検出センサーや発信機として活用した路車間通信を行い、カーナビ用3メディアVICSビーコンアンテナと対応カーナビから情報を受発信させる協調型のITSである。

具体的には、『一時停止規制見落とし防止支援システム』『出会い頭衝突防止支援システム』『信号見落とし防止支援システム』『赤信号停止車への衝突防止支援システム』の各情報を車両側に発信する仕組みを世界で初めて実用化した。

『一時停止規制見落とし防止支援システム』は、一時停止表示のある交差点手前で注意喚起をするもの。『出会い頭衝突防止支援システム』はその反対に、側道からの飛び出し車両を検知し、注意を喚起する。

『信号見落とし防止支援システム』『赤信号停止車への衝突防止支援システム』は、例えば比較的走行速度の乗る国道の信号手前で作動し、この先に信号があることを知らせる。 それぞれコトバだけで説明するのも無理があるが、各画像には説明も加えたので、併せてチェックして欲しい。

またいずれの仕組みも、やみくもに表示させるワケではないところに注目したい。各DSSSは、クルマの速度やドライバーの減速具合に応じ、条件に合致した時のみ警告を表示するのが特長だ。どんな条件下でも常に警告表示が出て来るようだと、ドライバーにとってはいずれ風景のようになってしまい、注意喚起の効果が薄れてしまう。「事故多発地点!」などと書かれた交差点の看板だとか、交差点手前で昼夜点滅する予告信号と同じになってしまう。その点でも、シンプルだが賢い仕組みなのだ。

※画像をクリックすると、それぞれのDSSS機能の説明が記載されています。

既存の技術を用いて、安価に普及させる

「出会い頭衝突防止支援システム」事例「出会い頭衝突防止支援システム」画面表示例

この取り組みのポイントは、既存の技術の活用にある。 ITSというと、道路などのインフラ整備と、そこからの情報を受信させるメディアがどうしても必要となってくる。しかしいくら素晴らしい取り組みでも、その情報を得るためだけに高価なオプションを装着しなければならないとなると、普及はおぼつかない。

日産では、カーナビゲーションの3メディアVICSビーコンアンテナと道路などのインフラを上手くつなぐことで、極力多くの人がその安全技術を安価に享受出来るようにしている。

日産純正のメーカーオプションやディーラーオプションの対応ナビゲーションシステムで、3メディアVICSビーコンアンテナを取り付ければOKで、また2008年以降の現世代のナビなら、さかのぼって機能を追加することも可能だ。軽自動車やコンパクトカーからエルグランド、フーガに至るまで、実に28車種に対応している。つまり、現在日産で市販されるほとんどの乗用車で対応可能というワケだ。

もしかするとこれは「官」ではなく、自動車メーカーの「民」の目線があるからこその発想だと感じるのは、偏見だろうか。官ならこの仕組みを享受出来るために、わざわざ第二のETCのような新たな通信機器規格を生み出しかねないイメージすらある。既存のインフラを利用していることは、地味ながらとても大事なことだと思う。

ただ残念なことにDSSSのインフラ整備が、あの昨年の政権交代の影響を受けているという。当初、自民党麻生政権の時代には全国1000箇所以上に及ぶ予算が付けられていたのだが、現在そこが頓挫しているというのだ。日産でもロビー活動などを行い、早急なインフラ整備の再開を要望している最中だ。

まだまだ進化するDSSS(次世代安全運転支援システム)

「信号見落とし防止支援システム」画面表示例

DSSS(次世代安全運転支援システム)は、もちろんまだまだ進化の過程だ。現在日産では、いくつかの実証実験を行っている。

例えば、GPS付きの携帯無線タグを用いた廉価な車車間通信や路車間通信で、歩行者や自転車、二輪車事故の防止を図る仕組み。

あるいは、右折時や左折の巻き込み事故を防ぐ仕組み。

さらには、本来は公安が管理する門外不出の信号機情報を「特別に」警察庁から提供を受け、何秒後に信号が切り替わることを把握し、その上で停車せずにエコな運転を支える走行支援システム、なんていうものもある。同様に、信号の制御情報を得て、あと何秒間信号に停車するか把握することで、アイドリングストップを作動させるか否かをコントロールしようとする試みもあるという。

いずれも非常に興味深いものだが、既に実証実験の段階までこぎつけているところは驚きだ。

とはいえ、どんなに優れたシステムでも、扱うのはあくまで人だ。例えば、過剰なインフォメーションは運転の邪魔となる。逆にドライバー自身がシステムに依存してしまい、目視の安全確認などを放棄してしまう可能性だってある。システム自体も100%の精度、というワケにはいかない。右折時に直進車は来ていないと表示されても、システムが何らかの理由で見逃すことだってあるだろう。「支援システム」とあるように、DSSSもあくまでドライバーを支援する仕組みだということを、絶対に忘れてはいけない。

「一時停止規制見落とし防止支援システム」道路上の光ビーコン 設置例道路上の光ビーコン 設置例VICS 光ビーコン送受信部3メディアVICSビーコン 表示例

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筆者オートックワン 編集部
樺田 卓也 (MOTA編集長)
監修者樺田 卓也 (MOTA編集長)

自動車業界歴25年。自動車に関わるリテール営業からサービス・商品企画などに長らく従事。昨今の自動車販売業界に精通し、売れ筋の車について豊富な知識を持つ。車を買う人・車を売る人、双方の視点を柔軟に持つ強力なブレイン。ユーザーにとって価値があるコンテンツ・サービスを提供することをモットーとしている。

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