DESIGNER'S ROOM vol.3 NISSAN SKYLINE CROSSOVER 渡辺誠二(4/4)
- 筆者: マリオ 二等兵
- カメラマン:島村栄二
馬力や操縦性などの性能はクルマの知識がないと、たとえ内容がすごくても、いまいちピンと来ませんが、良いデザインは見れば心にも響くものがありますからね。
V35型のスカイラインのクーペを手掛けた時、アメリカで老夫婦のオーナーさんと会話をすることがあって、「素晴らしいデザインのクルマだ」と、本当によろこんで貰えたことはすごく嬉しかった。
いちユーザーさんと、クルマを通じてつながることが実感できる。これはクルマ以外の工業製品では、なかなか得られない類いの感動なのではないかと思います。
クルマは趣味性が高い工業製品だから、情緒的な価値観を与えられるのが面白いですね。
たとえば初代キューブは「道具」がテーマでしたが、2代目では道具ではなくて「ペット」のような、自分の相棒のようになって欲しいという願いを込めました。つまり心的なアプローチをしたかったのです。
カーデザイナーとして、ご自分がデザインのコンセプトから100%関わったクルマは何でしたか?
R34型のスカイラインでした。
自分で原案スケッチを描き、それが採用されて製品として完成し、世に送り出せたときの喜びは、筆舌に尽くし難いものがあります。
それからはV35型のセダンとクーペ、そしてノートをやらせていただきました。ノートのときは、FR系のクルマから突然FFの小型車でしたから、とても刺激的でしたね。
あの頃は、自分がデザイナーとして波に乗っていることが実感できていました。
デザイナーとして波に乗っている、とはどんな状態なのですか?
与えられたコンセプトや市場環境、お客様のご要望にすべて応えながら、それを自分のスキルでコントロールできるっていう状態です。
カッコイイクルマの絵が描けます、ステキな絵が描けますってところから、ひとつの大きな壁を打ち破ると、様々な要求に対して自分でアジャストすることができるようになるんですね。
「なんでも来い!」という心境で、周りからの要望に応えながらも、自分の描きたいものを作っていく。
コンセプトがこうだから、こうしてくれ、と言われたことに対して柔軟に応じられる状態ですね。キャパシティが広くなるとでもいいましょうか。
「それはできない」と、周りからの要望を突っぱねて、自分の好きなフォームだけを追求してしまうと、デザインが悪い意味で画一化してしまう傾向があります。
自分で表現できるものがコントロールできる時期。それが「乗れてる時期!」なんですね。
これからカーデザインの世界を目指す人に向けてのメッセージとして一言でまとめると、「カーデザイナーはスタイリストではなく、カッコイイものを描くだけの仕事ではない!」ということですね。
はい。お客様の生活を豊かにするような、新しい価値観をどうやって表現し与えるか、ということを常にイメージしてほしいと思います。
人に与えられる夢を想像し、それを具現できれば最高の仕事になりますから。私も精進します!(笑)
インタビューを終えて
渡辺誠二氏にお話を伺い、カーデザイナーという仕事に対する尊敬の念が高まったと同時に、デザイナーの情熱や志を知ることによって、そのクルマへの愛情はより深いものになると実感した。
新車の購入を検討する際には、装備や性能を吟味することも当然大事ではあるのだが、どんな人が、どんな思いを込めて描いたデザインしたのかを知ることも大切であり、愛車選びの成功の鍵になるのではないかと感じた。
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