水素供給・利用技術研究組合・山梨文徳インタビュー(5/5)
- 筆者: 御堀 直嗣
- カメラマン:佐藤靖彦
楽しんで仕事をしよう!
すでに14年も燃料電池自動車と関わる仕事を続ける山梨文徳の、座右の銘とは、
山梨文徳 なにか著名な方がおっしゃった言葉ではないのですけれど、普段からモットーとしているのは、「楽しんで仕事をしよう!」です。
燃料電池自動車にまつわる仕事は、ものすごく面白くて、燃料電池に関わっていて面白くないと言う人が信じられないくらいです。
ですから、日産時代に、アメリカのカリフォルニアに実証試験のベースとなるガレージを立ち上げたときも、「FUN!」という言葉を使って、みんなで楽しんでやろうと言い、また、日本からアメリカへ行くスタッフには「楽しんで来い!」と言って送り出しました。
この仕事に就くことができて、幸運だと思っています。クルマが大変革する時期に、電気自動車や燃料電池自動車に携われることの喜びはもちろん、燃料電池自動車は、通常の自動車会社での関わりとは別に、いろいろな業界(国や自治体、エネルギー会社、エンジニアリング会社)の人々と一緒に、同じ目標へ向かって仕事ができます。
日産に就職したとき、まさか自分の将来がこうなるとは予想もしなった展開ですが、燃料電池自動車そのものの開発だけでなく、法律的な規格や基準づくり、水素ステーションという社会基盤づくりなど、これまで幅広く関わらせてもらい、世界が広がりました。世界とは、付き合いが広がるという意味でもあり、また海外との関係もあります。
最後に、海外の燃料電池自動車の動向は、どうなのだろう?
山梨文徳 日本以上に、海外での燃料電池自動車への期待は高いと感じます。たとえばドイツでは、クルマの路上駐車が当たり前になっています。すると、電気自動車への普通充電を自宅でする際、コンセントが無いということが起こります。アメリカでは、電気自動車よりもう少し長い距離を走る傾向にあるでしょうし、また、大型SUVを存続させたいとなると、電気自動車より燃料電池自動車の方が向いているのではないでしょうか。燃料電池と電気自動車は、お互いのカバー出来ない範囲を補うといった補完関係にありますが、海外はその範囲がより大きいかなと思っています。
エネルギー保障の点でも、たとえばドイツのように風力発電を積極的に導入する場合、風任せという不安定な電力を蓄える手段として水素を使う方法があります。つまり、風力発電の電力で水素を作り、それを蓄えて置いて、電気が必要なときには燃料電池で電気にして使うという手順です。
電気を一旦水素にして、それからまた水素を電気にするのは無駄なような気もするでしょう。しかし、電気はそのままでは溜めておくことができず、バッテリーに充電するといっても、自己放電するので、減っていきます。水素ガスなら、タンクに溜めて置けます。
ですから、エネルギーキャリア(エネルギーを保管しておくもの/筆者注)として、水素は面白いんです。で、どうせ一旦水素にするなら、クルマも水素で走らせちゃおうというので、ヨーロッパでも、とくにドイツでは、そんな考え方が出てきています。
事実、フォルクスワーゲングループでは、そうした構想を練っている。
「いつ」を語るのは難しい。だが、いずれにしても、将来的に電気をより活用する以外に、クルマを存続させるのは厳しいのは見えている。
なぜか?。その訳は、石油の埋蔵量でも、天然ガスやシエールガスの採掘の可否でもなく、たった100年ほどの間に人間が4.3倍に世界人口を増やし、10億台を超える自動車が世界にあふれてしまったからだ。環境問題しかり、さらには食糧問題や水問題も、人口増とエネルギー消費に無縁ではない。わずか100年ほど前には限定的であったり無かったりしたそれらの課題が、世界規模でさまざまな問題をもたらしている。
山梨文徳の仕事は、それを乗り越えていく未来を描く道のりである。一朝一夕にはいかなくても、人として、技術者として、やりがいのある挑戦だろう。
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