「自動運転」って退屈ですか?/~清水和夫氏に聞く~【後編】(2/2)

「自動運転」って退屈ですか?/~清水和夫氏に聞く~【後編】
米国向けオートメイテッド・ハイウェイ・ドライビング・アシスト(AHDA)テストの様子 関越道渋滞の様子 トヨタの自動運転技術実験車 AHDAによる追従走行 Mercedes-Benz SクラスによるINTELLIGENT DRIVEテスト中の様子 Mercedes-Benz SクラスによるINTELLIGENT DRIVEテスト中の様子 Mercedes-Benz SクラスによるINTELLIGENT DRIVEテスト中の様子 Mercedes-Benz SクラスによるINTELLIGENT DRIVEテスト中の様子 画像ギャラリーはこちら

アメリカのガイドラインでは自動運転を5段階で定義

AHDAによる追従走行

編集部:完全な自動運転が実用化されるまで、半自動的なシステムを使うことになると思いますが、進化のプロセスはどんなイメージなのでしょうか?

清水:少し長くなりますが、アメリカ政府が規定している自動運転の定義を紹介しましょう。繰り返しますが、まだ自動車メーカーは「無人で走るクルマ」は想定していないのですが、現在の技術で可能なのはドライバーが責任を持ち、自動運転は監視役として運転席に座り、いつでも人間が運転できる状態を保つことが前提となっているのです。

自動車と運転手の責任に関してはジュネーブ協定で国際的に決まっています。そこで自動運転の定義に関しては日米欧の各国の関係者の間では多少の違いはありますが、2013年5月にアメリカ政府のNHTSA(高速道路安全局)からガイドラインが発表されました。これは5段階に分けて定義されているのですが、この定義が基本となって日本でも関係者の間で合意されています。

編集部:もうそこまで世界では議論しているのですね。

清水:日本政府も自動車メーカーの関係者も国ごとに別個のルールでは困りますからね。ここでは具体的に定義を見てみましょう。

レベル0/自動化ナシ→ドライバー責任

レベル1/加速とブレーキの一部が支援される→ドライバー責任

レベル2/加速とブレーキに加えて操舵支援→ドライバー責任

レベル3/限定的な半自動運転→ドライバー責任

レベル4/完全自動運転 →機械の責任?

他の団体、たとえばSAE(科学技術学会)ではさらに細分化しているケースもありますが、本質的にはNHTSAと同じです。

編集部:現在はどのレベルにいるのですか?

現在の定義では、運転の責任はドライバーに

Mercedes-Benz SクラスによるINTELLIGENT DRIVEテスト中の様子

清水:最新のメルセデス・ベンツでも「レベル2」の手前です。というのはドライバーが手をハンドルから離していいのかどうかでレベル2になるかどうかが分かれるのだと思います。現在の技術やルールではドライバーはハンドルから手を離すことが許されていませんからね。

編集部:ドライバーが監視役として責任を負うわけですね。

清水:はい、でもレベル2~3の半自動でも責任はドライバーだと考えられています。しかし、現実はドライバーが手を離した瞬間からメールをチェックしたり、何か食べたりすることができますよね。これをドライバーのサブ・タスクと呼んでいるのですが、サブ・タスクを許すかどうか。このように自動運転を定義するには、運転そのものに対する考え方の違いが強く影響します。

編集部:といいますと?

清水:将来の自動運転が、技術的に視野に入ってきた昨今、日本では、国を中心にして将来の自動運転のフィロソフィーを決めようという動きがあります。このフィロソフィーを、国や企業や人々の間で協調することが、今後の技術開発にとってとても重要な意味を持ってきます。

Mercedes-Benz SクラスによるINTELLIGENT DRIVEテスト中の様子

清水:では、より詳しく、自動運転の話をしたいと思います。日本で交通事故で亡くなる方の数はまだ約4,300名もいます。日本の場合は歩行者事故が多く、亡くなる方の多くは、お年寄りと子どもです。数字もさることながら、ここで重要なのは、この事故の9割がヒューマンエラー、つまり、ドライバーのミスによるものであるという事実です。

編集部:すごく多いんですね、でも事故はドライバーの責任が多いわけでね。

清水:ドライバーがミスをすると人が亡くなる。場合によっては車は凶器になる恐れがあるということです。つまり、車は、まだまだ道具としては不完全なところがあるということ。日本の状況ですと事故を未然に防ぐことは、お年寄りや子どもを交通事故から守るということを意味するとも言えます。

編集部:本当にその通りですね。とても大切なことです。

どんなに自動化の技術が進んでも「監視する」という人間の役割は無くならない

Mercedes-Benz SクラスによるINTELLIGENT DRIVEテスト中の様子

清水:現在市販されているもっとも進んだシステムを持っているメルセデス・ベンツ Sクラスを例にしてみましょう。高速道路ではまず前方の車の後ろについて速度を設定します。そうすると前車との距離をミリ波レーダーで測定し、設定速度を最大として自動的に追従します。横から割り込むクルマが現れても、ワイドレンジのミリ波を使って警報したり、自動的にブレーキが介入し、衝突を回避してくれます。しかも、ハンドルが自動に動いて、車線の中央をガイドしています。

さらにわざと車線を横切ろうと左に寄っていくと・・・自動的にクルマが元の車線に戻ろうとします。メルセデスの場合はブレーキのESCを使って制御します。電動パワーステアリングを自動で制御して車線の中央をガイドし、車線から逸脱するとブレーキ制御で戻してくれる。既にこうした機能は実用化されていて、現在販売されている他のクルマにも同様の技術は搭載されています。

編集部:はい。よーく分かりました。でも、これからはもっと凄いのでしょうね。

清水:未来の車は、これからの自動運転技術の発展によって、よりシームレスにより自然に、技術がドライバーをサポートしていくことができるようになるでしょう。私は人によく言うんですが、それはまさに、人がパワードスーツを纏うような感じに似ています。でも、冒頭にお話ししたように「運転の責任はドライバー」という哲学が必要ですね。

どんなに自動化の技術が進んでも「監視する」という人間の役割は、なくならないと私は思っています。センサーやカメラの技術もどんどん進んで行って、人間と同じような判断ができるようになる日が来るかもしれない。だけど、判断するのは人間だという基本は変わらないと私は考えています。

ひとつの技術がすべての車に普及するには、20年くらい必要なので、だからこそ、今から自動運転技術の哲学をはっきりさせて、より理想的な自動車社会へ向かっていければと考えています。

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清水 和夫
筆者清水 和夫

1954年生まれ。1972年のラリーデビュー以来、国内外の耐久レースで活躍する一方、モータージャーナリストとして、自動車の運動理論・安全技術・環境技術などを中心に多方面のメディアで執筆し、TV番組のコメンテーターやシンポジウムのモデレーターとして多数の出演経験を持つ。近年注目の集まる次世代自動車には独自の視点を展開し自動車国際産業論に精通する。一方、スポーツカーや安全運転のインストラクター業もこなす異色な活動を行っている。記事一覧を見る

樺田 卓也 (MOTA編集長)
監修者樺田 卓也 (MOTA編集長)

自動車業界歴25年。自動車に関わるリテール営業からサービス・商品企画などに長らく従事。昨今の自動車販売業界に精通し、売れ筋の車について豊富な知識を持つ。車を買う人・車を売る人、双方の視点を柔軟に持つ強力なブレイン。ユーザーにとって価値があるコンテンツ・サービスを提供することをモットーとしている。

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