ビッグマイチェンを遂げたレクサス ISで1300km超の試乗・燃費テスト!FRならではの愉しさとともに見えてきた不満点も
- 筆者: 内田 俊一
レクサス ISとレクサスRCの2台を長距離試乗・燃費テスト!
何をいまさらレクサス ISとRCをテストするのか、と思わる方もおられるかもしれない。
実は、昨年末にレクサスオールラインナップ試乗会がジャーナリスト向けに開催された。そこで、久しぶりにISとRCに乗った時に、ちょっとした驚きがあった。
3年ほど前にテストした際には、バタつく足回りに辟易したのを思い出しながら試乗を開始したのだが、今回は意外にもしなやかで、きちんとストロークを感じ、数年で相当進化したことが窺われたのだ。そこで、再びテストすることで、もう一度じっくりと味わいたいと思った次第である。
せっかくなので、ISのクーペバージョンであるRCも連れ出したので合わせてレポートしよう。
ISは、昨年10月にマイナーチェンジが施された。
新型ISの最大のポイントは、「サスペンションのストローク速度が極めて低い状態から十分な減衰力を発揮する改良型ショックアブソーバーを採用したほか、フロントサスペンションロアアームをアルミ製に変更し、剛性アップと軽量化を両立。さらにスプリング・ブッシュの特性や、AVS・EPSの制御など、細部に至るまでチューニングを施し、操縦安定性と乗り心地をより高次元で両立することで、運転の気持ちよさを追求(以上プレスリリースより)」というもの。更に、このタイミングを待たずに小改良は頻繁に行われてたようで、テスターが“浦島太郎”状態なのも無理もなかったのである。
今回テストしたのは、レクサス IS300h F SPORT。テスト期間は2月6日~20日までの14日間で、一般道、ワインディング、高速を1,370kmほど走行した。装着タイヤはブリヂストン TURANZA ER33 225/40R18(前)、255/35R18(後)であった。
続けて、RC300h version Lもテストしたので、ISに後述する。こちらは2月20日~28日までの8日間で約690km走行。タイヤはブリヂストン POTENZA RE050A 235/40R19(前)、265/35R19(後)が装着されていた。
レクサス 新型ISの第一印象/硬いが角の取れた足が特徴
東京の水道橋にあるトヨタ東京本社の地下駐車場で受け取ったIS300hに乗り込むと、以前よりも質感が高まっていることに気づかされた。
インパネ回りの形状が若干変更され、ナビ画面が大型化されたほか、ヘアライン調のオーディオパネル周りはまるで家庭用高級オーディオを見ているようだ。左手でナビ画面横にあるスターターボタン(ハイブリッドなのでスイッチか)を押すと、例のレクサス独特の起動音とともにISは目覚めた。
ゆっくりと街中を走り始めると、F SPORTであるが故の足の硬さを感じることになる。
それは、単にガチガチに固めているのではなく、角は取れており、決して不快ではないが、それでもハードな部類に入るだろう。そのような足回りにも関わらず、ボディはしっかりしているので、不快な軋みや、ねじれ感は皆無だった。
レクサス 新型IS 市街地燃費テスト/FRの愉しさが感じられる
レクサス 新型IS 市街地における実燃費/17.0km/L
走行距離/717.2km
市街地を走っていて最も気に入ったのはFRの愉しさだ。それは、交差点を曲がりながら、ふっとアクセルを踏み込んだ時の後ろから押される加速感だ。決してスポーティではなく、レスポンスも俊敏ではないハイブリッドとエンジンながら、この愉しさは常に伝わってくるので、嬉しくなる。
一方で第一印象である足の硬さは市街地で使う限りでは、もう少ししなやかさが欲しいと思った。本音でいえばもうワンサイズタイヤは細くてもいい。ただし、見た目は劣ってしまうので悩みどころだ。
また、F SPORT用のシートは尻の部分が深くホールド性は高いものの、深すぎる印象で座り心地はいまひとつに感じた。
もう一つ気になったことは、ブレーキフィーリングだ。これはハイブリッドゆえのものなのだが、ストロークが短く、カツンとオーバーサーボのように効き、かつざらついたフィーリングがペダルから伝わってきた。どうしても回生ブレーキや制御の関係で致し方ないのかもしれないが、走る、曲がる、止まるという運転の愉しさにつながる部分なので、今後の改良に期待したい。
IS300hを信号からスタートする際の多くはEV状態で、途中からエンジンが掛かるのだが、その時だけ若干のショックを感じる。それ以外では、普通に走っている限りエンジンのオン、オフは全く気にならず、いつエンジンがかかったのかどうかは、気にしていないとわからないほどだ。これはボディ剛性の高さやエンジンマウント等が振動をうまく遮断しているということだ。
実は市街地を走っていて最も気になったのはウインカーだ。最近の新型車に乗ると、ウインカーレバーを軽く曲がりたい方向に押すと、3回から5回だけ点滅するものが多くなってきている。これは慣れてしまうと便利なもので、車線変更時には積極的に利用している。しかしIS(とRC)にはそれがないので、横着なテスターは不便に感じてしまったのだ。
さて、燃費だが17.0km/Lを記録。4気筒2.5リッターエンジンを搭載したハイブリッドとしては十分満足できるものと思われる。
レクサス 新型IS 高速道路燃費テスト/パワー感と直進安定性がいま一つ
レクサス 新型IS 高速道路における実燃費/16.0km/L
走行距離/639.0km
市街地から高速道路に足を踏み入れると、それまで感じられなかったいくつかの点が見えてきた。
まず、料金所から一気に加速した際に若干のパワー不足を感じた。これは、アクセルを踏み込んで追い越しをかけるときなどにも感じ、同時に少しもたつくようなレスポンスの遅れがそれに輪をかけるので、中間からトップエンド側のパワーをもう少し上げてほしいと感じた。
従って、高速を中心にハイペースで走ることが多い人には、絶対的なパワーは変わらないがアクセルレスポンスが向上するスポーツモードを選択するか、350の方がお勧めだろう。
また、直進安定性も若干弱く、ステアリングの微修正を頻繁に行う必要に駆られた。その要因として考えられるのは、オーバーサイズのタイヤに加え、フロア周りかステアリングラックあたりの剛性がわずかに足りないことが考えられる。そのステアリングは、重さは適当ではあるもののもう少し路面からのインフォメーションを得られた方が、安心感が増すと思われる。
高速ではLDA(レーンデパーチャーアラート)やレーダークルーズコントロールを試してみたが、他メーカーを大きく凌駕するものではなく、平均か若干それを下回る性能であった。LDAは過敏でかなり強引にステアリング操作に介入し、また、レーダークルーズコントロールは緩いコーナーでは隣の車線を感知することがままあった。
しかし、これはあくまでも自動運転システムではなく、安全運転支援システムなので、あくまでもドライバー主体できちんと周囲の状況を把握して運転していれば、かなりの疲労軽減につながることも事実だ。
このレーダークルーズコントロールを設定するには、ステアリングコラムから生えるレバーにて行う。基本はレバーの前後、上下に動かすことでセットするが、状況によっては手をステアリングから離すこともあり得る。これはぜひステアリング上にスイッチを移動し、簡単に操作できるようにしてもらいたい。ステアリングスイッチで、F SPORTはメーターが動く演出を用いているが、それよりもはるかに重要なスイッチだと思う。
高速での燃費は16km/Lという結果だった。ハイブリッドは高速でのEV走行が減るので、一般道より燃費が落ちることがままある。IS300hもその傾向は同様であったが、別の見方をすると、どのような条件下でも大きな差もなくこのあたりの燃費を保つことが出来るということだ。
レクサス 新型IS ワインディング燃費テスト/FRの愉しさを再確認
レクサス 新型IS ワインディングにおける実燃費/7.5km/L
走行距離/18.0km
せっかくのスポーツセダンなので少しワインディングも走らせてみた。ここでは、やはり街中で感じたFRの後ろから押されるような独特のインフォメーションが伝わってくるので、FRのクルマを操っているというドライビングの楽しさを味わうことが出来た。
コーナリング姿勢は安定し、軽いアンダーステアできれいにコーナーを立ち上がるあたりは、しっかりとしたボディと足回りの恩恵に違いない。また、尻を深く座らせるシートもホールド性が高いので、安定した姿勢を保つことが出来た。
その一方で、前述した若干のアンダーパワーとアクセルレスポンスの付きの弱さ、そして、ステアリングフィールのインフォメーションの少なさが気になってきた。スポーツモードを選択することで緩和はされるものの、基本的な部分は変わらないので、次期型では改良を望みたい。
それともう一つ、せっかくのスポーツセダンなのでハイブリッドとはいえスポーツモードにしたときは、もう少し良い音を楽しみたいものだ。
ある程度振り回すドライビングをした結果、燃費は7.5km/Lに留まったが、これ以上悪化することはないだろう。
レクサス 新型IS/気になるスイッチ類の使い辛さ
1,300kmほど一緒に過ごすと、短時間の試乗では分からないような気になるところも多々見えてくるものだ。
その最たる例がナビゲーションだ。今回画面が大きくなり見やすくなったものの、基本操作はセンターコンソールから生えた“キノコ”のようなリモートスイッチで行うのだが、この位置と操作感が酷いものだった。
まず、ドライバーから遠い位置にあることが理解できない。確かにドライブセレクトモードを手前に置きたい気持ちは、車両性格上わからないでもない。しかし、どちらの操作頻度が高いかといえば、明らかにこのリモートスイッチなのだから、これが最優先で配されるべきだろう。
更にこのリモートスイッチは、画面を見ながらカーソルを合わせるべく、いわばマウスを“左手”で操作するイメージ。さすがにレクサスもそのままでは操作しにくいと、僅かにカーソルが目的のメニューを指した時にクリック感を持たせている。しかし、それでもその位置に合わせるのは非常にやりにくく、何度も目的の場所を行きすぎたり戻ったりと、本当にいらいらさせられた。
他と差別化を図り、個性を出したいという気持ちはよくわかるが、それにより使い勝手が低下するのは本末転倒だ。
色々な場所にあるスイッチは小さく、また数が多すぎる。特にステアリングスイッチは煩雑で、ミスタッチも多かったことから、重要なものとそうでないものを再度整理するとともに、スイッチを減らす、あるいはレイアウトする必要があるのではないかと感じた。
現行がデビューして4年余りが経過し、そろそろモデル末期に差し掛かっているISだけに、特に装備に関しては若干時代を感じさせる部分もないわけではない。
半面、走り、特に足の動かし方に関しては、かなり進化の余地があったようで、初期に比べれば相当良いクルマに仕上がったといえるだろう。つまり、ベースが良かったということで、それを生かしきれなかったのが初期のクルマなのだ。
もちろん現在がベストとは言えない部分がある。それは、その硬さが疲れにつながるかどうかだ。現状では長距離を一気に走ると、少々体にはきつくなってくることも事実であった、ISを相対的に評価すると、スポーツセダンが好きで現在のデザインや装備に納得が出来れば、ショッピングリストに入れる価値はあるだろう。
RC Fの成り立ちとボディ剛性
ISのバリエーションとしていくつかのボディが検討された結果、アメリカからの要望が強く、クーペが採用された。
そのポジショニングは、ISとGSとの隙間を埋めるクルマというで、少しお金に余裕のある人たちのための、ゆとりが感じられるクーペを目指している。
もうひとつ、RCはこのままで5リッターV型8気筒を搭載するRC Fを作らなければならなかった。それを踏まえてボディ設計したことから、標準モデルではボディ剛性がオーバースペックなくらい高いという。
結果、ボディはボディの仕事、サスペンションはサスペンションの仕事をさせることが出来、しなやかさが感じられて、きちんと動く足回りが完成したのだ。
レクサス RC300h version L/ISと大きな差はないが、希少なクーペであることに価値がある
基本的にはISの印象と大きく変わるところはなく、FRの良さを感じるハンドリングや加速感に対して、直進安定性の弱さやブレーキフィーリングの違和感など印象はほぼ同じだ。ただし、足回りに関してはversionLということもあってしなやかさが増した印象で、快適なドライビングを楽しむことが出来るだろう。
一方で、ボディ剛性はセダンと比較すると若干落ちており、少し緩い(あくまでもISと比較しての話で、他よりは高い)印象だ。それもあり、タイヤのバタつき感がISよりも伝わってきて、またロードノイズの侵入も大きいようだ。
サイドシルについて一言。空力と共にフロントからリアへ徐々に張り出しを持たせスポーティ感を強調しているサイドシルスカートだが、実は乗り降りの際にパンツのふくらはぎのあたりがそこにあたるのだ。特にドアを大きく開けられないときなどは注意が必要で、雨上がりなどでは汚してしまうことがあったので、改良を望みたい。
こういったクーペにエレガントな女性は似合うはず。その彼女が少しみっともない格好で乗り降りする姿は見たくないでしょう?
燃費は一般道で14.1km/L、高速で16.6km/Lで、ISよりも一般道での燃費の落ちが著しいが、これは流れの速い深夜のバイパスや、郊外のオープンロードが多く、EV走行が少なかったからで、実際に同じ条件下であれば、ほぼ同等の印象だった。
RCもIS同様、設計年度による古さが見え隠れする。しかし、今日本車市場を見渡した時、このボディサイズのクーペは皆無に等しく、輸入車勢に対抗できるクルマはRCくらいしかない。
多くの台数は見込めないまでも、上質なクーペはブランドイメージを牽引する大きな役割を担っているので、ぜひ、引き続き更なる高みを目指してほしいと思う。
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