三菱自の不正を見抜けなかった国土交通省の責任は -曖昧な「燃費審査」-(1/2)
- 筆者: 渡辺 陽一郎
今回の不正問題に深く関わってくる「エコカー減税」
今回の三菱自動車の燃費試験における不正問題は、当然ながら同社に重い帰責性がある。この点を踏まえた上で「燃費とは何か」について考えたい。
燃費の数値の意味については、皆さんご存知の通り「クルマを走らせることで、どれだけの燃料を消費するのか」を示す。今は「JC08モード」と呼ばれる計測方法で得られた燃費の値が、車両データとしてカタログのスペック欄などに記載されている。
消費者目線でみれば、燃費によって影響を受けるのは「燃料代」だろう。だが広義で見た場合には、燃料を多く消費すると一酸化炭素/炭化水素/窒素酸化物といった有害物質や二酸化炭素の排出量が増える。そのあたりの環境問題については、損得勘定のみで語ることは出来ない。
そのため排出ガス基準と併せて燃費基準も設けられ、その達成度合いに応じて自動車関連の税金を軽減させる制度も実施されている。
乗用車で減税される税目は3種類。まず「エコカー減税」は、購入時に納める「自動車取得税」と3年分の「自動車重量税」がある。この2つが免税(100%減税)される車種は、購入から3年後の初回車検時に納める自動車重量税も免税になる。
「自動車税のグリーン化特例」としては、購入の翌年度に納める「自動車税」と「軽自動車税」も軽減される。つまり、燃費が優れているクルマを買えば税金も燃料代も安くなるから、燃費の良し悪しがクルマの販売台数にも大きく影響するわけだ。
特にエコカー減税に対するユーザーの関心は高く、前述の減税が受けられないクルマが販売数ランキングの上位に入ってくることは皆無なほど。
減税の割合は、自動車取得税が20~100%減税(免税 or 非課税)、自動車重量税が25~100%減税(免税)の間でいくつかに区分され、減税の割合が大きいほど販売台数を伸ばしやすい。そして、ボディサイズやエンジン排気量が小さく価格が割安な車種ほど、燃費値とエコカー減税に対するユーザーの関心は高まっていく。
その代表例が「軽自動車」で、近年ではエコカー減税の達成や燃費競争がメーカー間で激化。全高1,700mm以下の軽自動車は、JC08モード燃費「30km/L以上」、さらに「エコカー減税は免税」がもはや常識のようになってしまっている。
具体的には、NAエンジンを搭載する2WDの売れ筋グレードの場合、スズキ ワゴンRが「33km/L」、スズキ ハスラーが「32km/L」、ダイハツ ムーヴが「31km/L」、そして不正の対象となった三菱 eKワゴンと日産 デイズは「30.4km/L」。これらの車種はすべて100%減税(免税)である。
58%にも達していた三菱自における軽の販売比率
ちなみに、ここ10年ほどで軽自動車の燃費(以前の10・15モード燃費を今日のJC08モード燃費へと補正した場合)は、150%前後まで燃費が向上した。その影響もあって、近年では小さなクルマへとダウンサイジングするユーザーが増加。
直近では軽自動車の販売は不振といわれながらも、2015年度(2015年4月~2016年3月)の販売実績を見れば、それでも国内新車販売の実に37%を占めている。また、三菱自動車における軽自動車の割合は58%にも達する。
さらに、今回の三菱自動車の燃費不正問題では、軽自動車以外の「国内市場向け車種についても、国内法規で定められたものと異なる試験方法が取られていた」とされる。対象車種が小型&普通車にもおよびそうだが軽自動車と同様、背景に燃費とエコカー減税の競争が関連していることは間違いないだろう。
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