三菱自の補償金「10万円」は本当に“妥当”なのか、ユーザーへの損失を計算してみる(1/3)
- 筆者: 渡辺 陽一郎
eKワゴンなど軽4車種のユーザーに一律「10万円」が支払われることに
三菱自動車の燃費偽装問題に新たな進展があった。
2016年6月17日に、燃費数値を改ざんした軽自動車の4車種(2013年6月から生産されている三菱eKワゴン/三菱eKスペース/日産デイズ/日産デイズルークス)について、顧客に1台当たり一律で10万円の補償金を支払う方針を明らかにした。軽自動車以外で燃費を改ざんした車種では、1台当たり3万円を支払うという。
さらに6月21日には、改めて正しい方法によって燃費を測定したeKワゴン/eKスペースの数値が明らかにされた。デイズとデイズルークスも必然的に同じ数値になる。
まず不可解なのは「軽自動車の顧客に一律10万円」を支払う根拠が示されていないことだ。
6月21日に正しい燃費数値が明らかにされた今でも、その状況に変わりはない。三菱自動車では「10万円ならば、ほとんどすべてのお客様の負担額をカバーできる」としているが、ユーザーにしてみれば不正の後始末をする段階でも三菱自動車から「いい加減な対応をされている」と感じてしまうことだろう。
個々のユーザーの使い方に応じて金額を決めるのが本来のあり方だが、それが難しいのであれば正しい燃費数値と偽装された数値の差をベースに、平均的な走行距離、平均的なガソリン価格、平均的な使用年数を経た後の将来的な査定額の下落分なども勘案して、支払う金額を理論的に示すべきだ。
今の対応からは「軽自動車の顧客に10万円を支払えば、文句はないでしょう」という意図が透けて見える。
さらに6月21日に明らかになった新しい燃費数値も不可解だ。eKワゴン/eKスペースとも、発売してから数回にわたり燃費数値を引き上げており、直近のカタログ数値と新たに国土交通省に届け出された数値を比べると、以下のようになる。
新たに届け出された燃費数値はNAが15~16%、ターボは8~10%悪化
※数値はすべて2WDのアイドリングストップ装着車
・eKワゴンの自然吸気/旧:30.4km/L → 新:25.8km/L(悪化率:15%)
・eKワゴンのターボ/旧:26.2km/L → 新:23.6km/L(悪化率:10%)
・eKスペースの自然吸気/旧:26.2km/L → 新:22.0km/L(悪化率:16%)
・eKスペースのターボ/旧:24.0km/L → 新:22.0km/L(悪化率:8%)
ちなみに三菱自動車以外の複数の車両開発者に尋ねたところ、走行抵抗に粉飾を目的とした改ざんが行われたとしても、JC08モード燃費の数値に与える影響は「多くて5%程度。10~15%という開きは常識を超えている」と言う。これは車両開発の実務的な話だ。
仮にシャシーダイナモメーター上でJC08モード燃費の運転試験を行ったドライバーが、燃費測定のスペシャリストではなかったとすれば、新たな届け出数値が大幅に下がっても不思議はない。従ってこれ以上の言及は避けるが「走行抵抗の違いだけで燃費数値が16%も悪化するのか?」という疑問は、ユーザー側としては当然に生じる。この点も踏まえた上で、10万円の補償金額について考えたい。
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