コスモスポーツ&R360クーペ レストア車両試乗レポート。1960年代の名車を贅沢比較【マツダ体験会レポートNo.1】(2/3)

  • 筆者: オートックワン 編集部
  • カメラマン:MAZDA

◆マツダ コスモスポーツとは

R360クーペが、マツダ初の軽乗用車としてデビューを果たした7年後、その未来的な見た目と、「世界で初めてのロータリーエンジン(2ローター)搭載車」というセンセーショナルなデビューを果たしたマツダのクーペがあった。その名は“コスモスポーツ”。

キャビンを中央に据えた宇宙船のようなフォルムは、当時すでにコモディティ化の一途にあった他車とは全く異なる特異なデザインであり、数十年の時を経ても見る者を飽きさせない。むしろ見るたびに新鮮な感動を与えてくれる。

コスモスポーツは、同時期に登場したトヨタ200GTにならび、誰もが憧れる存在だったと言う。

当時の新車価格は約148万円。1967年(昭和42年)の平均年収が62万円であったことを考えると約2.4倍。2015年の平均年収は約420万円なので、1,000万円前後の高級スポーツカーということになる。

高速化の一途をたどる時代に注目された最高速度は185km/h(デビュー当初)。デザインもさることながら、軽量コンパクトかつハイパワーな“ロータリーエンジン”を武器に、世界に“マツダ”の名前を轟かせた。

◆ロータリーエンジンとは

コスモスポーツを語るうえで最も重要なのは皆さんご存知の“ロータリーエンジン”だ。コスモスポーツはロータリーエンジンを公道で走らせるために作られたといっても過言ではない。

1960年代、貿易の自由化に伴い海外の高性能な製品が参入してくるという危機感から、当時の通商産業省『特定産業振興臨時措置法案』が提出された。特定産業に指定された自動車は、乱立していた自動車メーカーを3つのグループにまとめることで、海外企業の参入に対抗しようとしていたのだ(法案は通らなかったので、この動きは実現していない)。

マツダ所属しそうになった乗用車グループには、当時すでにトップ2となっていたトヨタと日産が含まれており、吸収合併されてしまう危機感を覚えた結果、独自の技術を求め、ロータリーにたどり着いたのだ。

ヤンマーやメルセデスと並び、第一期のバンケルクラブメンバーとなったマツダは、ドイツのNSU社からロータリーエンジンに関するライセンス供与を受け、開発を開始する。

しかし、アペックスシールを初めとする問題が山積しており、マツダでロータリーエンジン開発に携わった専門部隊、“ロータリー四十七士”をもってしても実用化までに6年の歳月を費やすこととなる。

その構造は、ピストン運動でエネルギーを生み出すレシプロエンジンとは全く異なり、回転運動によってエネルギーを生み出す画期的なものであった。軽量・コンパクト・ハイパワー・低燃費(当時の基準で)という特徴をもつ唯一無二のエンジンを、世界に先駆けて量産化したのが東洋工業(マツダの前身)なのである。

◆コスモスポーツ試乗に“あえて”助手席で挑む!

見出しを見た読者の皆さんは、“助手席”という単語を目にして一瞬ガッカリしたことであろう。しかしよく考えてみてほしい。もし皆さんがコスモスポーツに試乗できる機会があったとして、運転する以外の選択肢を取るだろうか?いやしないだろう。

オールドモデルの試乗記を読んでくださる“プロ読者”の皆さんは、そんな貴重な時間を運転以外に使おうとは微塵も考えないはずだ。考えたとしても運転に少しでも時間を使うべく立ち回ることだろう。

ならばメディアのやることは一つ、皆さんが知らない世界をお届けすべく、運転したい気持ちを抑えに抑えて助手席に座ってきた。二度あるかわからない貴重な機会を使ったのでぜひ、最後まで読んでいただきたい。

試乗コースはR360クーペと同じくフラットコース。地方の大型スーパーの駐車場サイズのエリア各所にパイロンが並べられ、ブレーキ性能、加速性能、ハンドリング性能を確かめられるコースが作られていた。

◆コスモスポーツ試乗レポート!室内には“小宇宙”が広がっていた

今回レストアされた個体は、2017年に開催されたオートモービルカウンシルでも出展されていたものだ。マイナーチェンジ前のモデルのため、最高速度は185km/h。オーロラホワイトと特徴的なシルバーのメッキバンパーが青空によく映える。

コスモスポーツのボディサイズは全長:4,140mm/全幅:1,595mm/全高(車高):1,165mmと見た目よりも長い。キャビンが車体中央に寄せられているため、数値よりもギュッと凝縮された見た目をしている。

一見してわかる通り着座位置はかなり低く、感覚的にはNAロードスターやNDロードスターに近い。かといって天井が低すぎるわけでもなく、身長174cmの筆者が座ってもこぶし一つ分くらいは余っていた。

シートは革張りなのでしっかりした印象。意外に安定感があり、多少左右に振られても体がずれる感じはしない。シートベルトは一応3点式なのだが、バックルの部分が飛行機のシートについているそれと同じ形状だった。

また、室内空間の広さとしては、NAロードスターとNDロードスターを足して2で割った様子をイメージしていただければよい。足元とシート周辺の空間はNAロードスターより多少広く、意外に快適。頭部周辺は窮屈感を感じるわけでもなく、かといってゆったりしているわけではない、適度なタイトさを感じた。

室内色はガラッと世界観が変わる品の良いブラックで統一されており、様々な計器類が水平基調に整然と並んでいるさまはまさに“宇宙船のコックピット”。R360クーペという、コスモスポーツの対局に立つ“大衆の足”的なクルマと同時に乗り比べたからこそ解るのだが、当時人が目にしていた乗用車のインパネと大きく異なる様は、純粋にクルマにあこがれを持つには十分すぎるものであり、人々に未来と夢を与えるデザインだと思った。

また、マツダの第6世代の商品群は、どれも同じ思想で作り込まれ、統一感のある世界観に感じられるようにしていると、体験会の中で説明を受けたが、まさかコスモスポーツに乗った瞬間に「ロードスターに似ているなぁ」と感じるとは思ってもみなかった。

◆元始のロータリーサウンド響き渡る!コスモスポーツの走行性能やいかに

まずはブレーキ性能の確認から。R360クーペと異なり前輪がディスクブレーキになっている分、効きはよいがゆっくり効き出すことに変わりはない。ただ、やはりここは高級スポーツカー、「止まらないのでは?」という不安感は少ない。

轟音と共にスタートするが、走っている間はちゃんと会話ができるし、むしろ某ドイツ車のミニバンより静かなくらいだ。さすがに当時で静粛性を売りにしていただけのことはあると感心していたが、さらに驚かされたのは振動の少なさ。ほぼ“ない”と言っても過言ではない。かなり近い位置でエンジンが稼働しているはずなのだが、それを忘れてしまうほどなめらかだ。これがロータリーの実力なのだとすれば、現代でも十分通用する静粛性だと思う。

今回は60km/hまで加速していただいたのだが、レシプロエンジンとロータリーエンジンの違いを如実に感じることができた。アクセルを踏み込み、加速を開始すると、低く唸るような音と共に車体が“滑るように”動き出す。低回転域からトルクがあり、車体も軽いので、出だしがかなりスムース。

さらにスピードを上げるが、その時のエンジン音がまた心地よい。サバンナRX-7やRX-7は、いかにもスポーツカーらしい、煽情的な力強い音がするのだが、コスモスポーツの場合、マイルドで包み込むような高級感のある低音なのだ。表現しがたいが、「ノイズの少ないクリアな低音」と言えば伝わるだろうか。

レシプロエンジンは、「ピストンの振動音」という感じだが、ロータリーエンジンの場合、「何かが回転している音」で、雑味が無く、丸みのある回転音が、筒の中で反響しているようなイメージだ。

止まっている間にシフトの感触を確かめさせてもらったのだが、クラッチがかみ合う瞬間にグイッと抵抗があり、比較的重いシフトフィールだった。

「機械を操作している感」が醍醐味のMTであるが、難しいこと抜きに素直に楽しい運転ができるのではないだろうか。“興奮する”とも違う高揚感と優越感を味わうことのできる、独特なロータリーサウンドは、機会があればぜひ聞いてみてほしい。

◆コスモスポーツはマツダの夢を運ぶ宇宙船たりえたのか

今回の試乗体験で、コスモスポーツとR360クーぺに同時に試乗できたのは非常に価値のあることだと思った。なぜなら、普通であれば、コスモスポーツは高級スポーツカーとして、R360クーぺは大衆の足としての先入観を持って乗ってしまうが、今回は“マツダの歴史を語る1960年代のレストア車”として、ある意味並列な視点で見ることが出来たからだ。

この50年、クルマは機械として様々な進化を遂げてきたが、常に人の役に立つために、人と共にあり続けたことに変わりはない。人々に自由に移動する喜びを与えたR360クーペ、人々に夢と未来への希望を与えたコスモスポーツ。この両極端に位置するクルマへの試乗体験を忘れることなく、今後登場する数々のモデルを観察し、伝えていくのが我々メディアの役目だと感じた。

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筆者オートックワン 編集部
樺田 卓也 (MOTA編集長)
監修者樺田 卓也 (MOTA編集長)

自動車業界歴25年。自動車に関わるリテール営業からサービス・商品企画などに長らく従事。昨今の自動車販売業界に精通し、売れ筋の車について豊富な知識を持つ。車を買う人・車を売る人、双方の視点を柔軟に持つ強力なブレイン。ユーザーにとって価値があるコンテンツ・サービスを提供することをモットーとしている。

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