イタリアの産業用車両メーカー「イベコ(IVECO)」、天然ガスで走る新交通BRTシステムと大型トラックで日本進出か(2/3)
- 筆者: 遠藤 イヅル
- カメラマン:IVECO・オートックワン編集部
世界大手のトラック・バスメーカー「イベコ」が天然ガス自動車を武器に日本進出
前置きが長くなってしまったが、そのイベコが今回日本進出のキーとしているのが「天然ガス車」である、というポイントだ。
イベコ社は天然ガスバス・トラックの開発を1990年代からから進めており、1996年には最初の大型トラック・バスに、2000年には小型バン(LCV)「デイリー」に天然ガスモデルを導入、以降中型トラックや大型のトラクターにもCNG/LNGモデルを投入するなど、天然ガス関連の技術改良・蓄積に関しては一日の長がある。イタリアでは欧州内でも特に天然ガス車の発展に早くから取り組んでおり、現在約100万台の天然ガス車が走っていることも背景にあるようだ。
今回、日本にイベコのトラック・バスを導入するにあたり選ばれるのはこの「天然ガス車」。バスは全長18mの車体を持つ連節バス「クレアリスNP」で、日本でも都市輸送で脚光を浴び始めている「BRT(バス・ラピッド・トランジット)」で運用することを想定している。またトラックに関しては、天然ガス車の欠点だった長距離走行が難しい点をクリアした大型トラック(けん引トラクター)「ストラリスNP」を販売する計画だ。
日本に導入される連節バスのベースは「クレアリスNP」
クレアリスNP(ニューパワー)は18mの2連接車体を基本とするが、カタログには12m級モデルの記載もある。エンジンは「カーソル8」と呼ばれ、天然ガスを燃料とする。18mモデルで最高出力は330ps(243kw)。バイオガスにも対応し100%バイオガスを使用した場合CO2の削減率は−95%に達し、日本の排ガス規制より厳しい「ユーロ6」も余裕でクリアする。
欧州では近年路面電車(LRT)の導入が各都市で進んでいたが、昨今では軌道や架線などのインフラ整備が不要で導入コストが安いBRTがその替わりを担い始めているという。LRT先進国のフランスでもナンシー、ル・マン、ルーアンなどでクレアリスNPが導入されBRT化が進められている。
トラックは“TCO&CO2削減チャンピオン”トラック、「ストラリスNP」
欧州でのトラックの脱ディーゼル化を目指して開発されたストラリスNPは、4×2レイアウトを持つトラクターがカタログに掲載されている。8.7リッター直6「新カーソル9」エンジンは400ps/1700Nmの最高出力/最大トルクを誇り、これはディーゼルエンジンと同等のパワーとトルクを実現した。騒音もディーゼルエンジンに比べて大幅に少ないという。
天然ガス車の大型トラックが抱えていた航続距離の問題は、LNGのみで1500km、CNG+LNGで285+750km、CNGのみで570kmを確保。クラス最高の航続距離を持つと謳われる。トランスミッションは運転の快適性を高め燃費向上も果たすユーロトロニック12速ATとなる。こちらもバイオガス100%の場合NOX(窒素酸化物)、PM(粒子状物質)は劇的に減り、CO2も−95%を達成する。燃費もディーゼルエンジン比で15%削減することなどから、イベコ社ではTCO(総投資効果)にも優れていると説明する。
日本でのイベコ社の車両整備・メンテは「両備グループ」が担当!
また、今回の記者発表でとても興味深かったのが、イベコ社製品をメンテナンスする企業名だった。日本を走る海外製トラック・バスの場合、例えば北欧・スウェーデンのスカニアの場合はスカニアジャパンという日本法人があり、輸入販売・メンテを行っている。メンテナンスが必須のトラック・バスは、売りっぱなしというわけにはいかず、アフターフォローが重要になってくる。そこがおろそかだと、ユーザーが万が一の際に不安になり、そもそもの販売につながらない。そのため、アフターフォローを含めたメンテナンスの体制づくりが必須といえるのだ。
そこで今回イベコ製品はレオロジー関連装置・合理化機器・CAEプログラム等の海外製品を輸入する「ITSジャパン」が取り扱い、「両備グループ」が日本仕様への架装、組み立てやメンテナンスを担当する検討を進めるという。
両備グループは岡山エリアを中心にバス・路面電車・フェリーなどの交通事業を軸に、小売店、不動産業など様々な事業を展開する大きな企業グループで、古きを知る鉄道ファンには「西大寺鉄道」がその礎といえばわかりやすいかもしれない。岡山の路面電車「岡山電気軌道」も、いちご電車・たま電車などが話題の「貴志川電鐵(旧南海貴志川線)」も両備グループの経営だ。
両備グループは2010年に「エコ公共交通大国構想」を発表するなど、これからの日本の公共交通のあり方について真剣に提言を行っていた。その中で2016年12月、NGVイタリアのマリアローザ・バローニ会長と大阪ガスの訪問を受け、イベコ社の天然ガス仕様バスの環境・コストへの優位性、欧州における天然ガス車の技術開発の進み方などを知った経緯を経て、両備グループとイベコ社の業務提携に向けてのストーリーが進んだという。同グループの両備テクノカンパニーが、2017年6月に20m級のバスをメンテナンス可能な倉敷工場を新設したというタイミングもあった。
今回記者発表に登壇した代表取締役副社長 松田 敏之氏によれば、バスはクレアリスNPをベースに同グループが日本での走行に向けた架装を行う、とのことだった。その際にはどのような姿、デザイン(両備グループの様々なカラーリングデザインはデザイナー水戸岡鋭治氏が務める)になるのか、今から楽しみだ。
欧州ではエンジン車廃止の動きが加速
イベコ社の日本進出の話題を先に持って来たが、今回の記者発表のもうひとつのポイントは「ディーゼル車廃止に向けてのヨーロッパの動向」というテーマにある。
2014年12月にパリ市長が2020年までに大気汚染の原因のひとつであるディーゼル車の一掃を目指す方針を表明、そして今年6月にはフランスが2040年までにガソリン・ディーゼル車の販売を中止するというセンセーショナルな発表を行い、それを追うようにイギリス政府も同様の方針を打ち出したことは記憶に新しい。
それ以外にも、ボルボが2019年以降はEV(電気自動車)かPHV(プラグインハイブリッド車)、もしくはハイブリッド車以外発売しないと発表。スポーツカーメーカーの雄であるポルシェでさえも2023年までに生産の半数をEVにすると表明しており、欧州における脱エンジンの動きはここ数年、いや数ヶ月単位で急速な動きを見せている。
次世代自動車エネルギーに「天然ガス」を選択
欧州では燃焼効率に優れ燃料代が安く、エンジンのフレキシビリティが高いことから、トラック・バスのみならず一般的な乗用車全般でディーゼル車が普及していることはご存知のとおり。だがその一方でディーゼルエンジンはPMを排出するという問題も抱えている。2012年にIARC(国際がん研究機関)がPMには発がん性物質が含まれるという発表を行ったこともあり、EUは急いでガソリン・ディーゼル車の廃止推進と代替エネルギーの検討に入った。そこで俄然脚光を浴びたのが、天然ガス車だった。
天然ガス車のメリットは多いとされる。まずCO2、NOXの排出が少なく、PMもほとんど出さない。そしてまだ開発途上にあるといえるクルマの電動化技術に比べて、天然ガス車のエンジンは既存の熟成した内燃機関技術を活用出来るという点も大きい。
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