ホンダ S660 公道試乗レポート/嶋田智之(4/5)
- 筆者: 嶋田 智之
- カメラマン:茂呂幸正
コーナーを曲がることそのものの“楽しさ”を教えてくれる
けれど、この足腰の真骨頂は当然ながらそこじゃなかった。よく動く脚は、S660の走りの楽しさを見事に決定づけている。
例えばスロットルペダルを踏んで加速していくときには重心がしっかり後輪にのって駆動してることを感じさせてくれる。そしてコーナーを前にしてスロットルから足を放した瞬間、その重心がスッと4輪にバランスよく載ったことが解る。そしてブレーキペダルに足を載せると、フロントのサスペンションがグッと縮みながら前輪を路面に押しつけていき、「ステアリングを切るのは今のうちだぞ」と教えてくれる。
そこでステアリングを操作すると、S660の短いノーズは極めて自然に、気持ちよくイン側を刺して車体の向きを変えようとするのだ。
コーナー外側のサスペンションを前後とも適度に沈ませ、イン側の前後を適度に延ばし、ちょうどいい具合のロールを感じさせながら、低速コーナーではドライバー中心と言うよりもむしろガッチリと路面を掴む後輪を支点にしてフロントがグイグイ切れ込んでいくようなフィールすら感じさせながら、高速コーナーでは前輪も後輪もピタリと安定したほとんどニュートラルな姿勢のまま、しなやかに綺麗にコーナーをクリアしていく。荷重がどこのタイヤにどれくらい載っているのかが掴みやすく、コーナリングスピードはちょっとビックリするほど速い。だから、曲がることがめちゃくちゃ楽しい。
上級者も、初心者もその楽しさを味わうことが出来る
というと、それなりのウデを持った人しかその気持ちよさを味わえないように思われるかも知れないけれど、全然違う。
S660にはアジャイルハンドリングアシストと呼ばれる一種のトルクベクタリングシステムが備わってるから、それほど神経質にならなくても曲がりたい方向にスッと曲がれて、ピタリと姿勢を保ったまま、素早く気持ちよく駆け抜けていくことができるのだ。
ミッドシップのスポーツカーというと、アンダーステアが強いとかすぐにスピンしちゃうとか、そんな厄介な挙動を思い浮かべる人もいるだろうけど、それはほとんど皆無。上級者でも初心者でも、レベルに合わせた楽しさを味わうことのできる、素晴らしいハンドリングマシンなのである。その楽しさ、気持ちよさは、交差点を曲がるぐらいの領域でもちゃんと味わえるというのが、また嬉しい。
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