キャデラック XT5クロスオーバー 試乗|この国でアメ車を売るためにすべきこと

日本人がもっとキャデラックを買えば、きっとトランプさんも納得する!?

このところ何かとニュースになることの多いアメリカのトランプ大統領は、以前から「日本は大量のクルマをアメリカに輸出しているのに、日本ではアメリカ車をほとんど買わないから不公平だ」という趣旨の発言をしてきた。

確かにかつての日本は、アメリカに大量のクルマを輸出していた。1985年には乗用車が222万台、商用車が92万台、合計すれば314万台に達した。ところが今は170万台前後だ。1980年代以降は北米に続々と日本車メーカーの工場が建設され、現地の人達を雇用して生産をするようになった。各種の部品も現地で調達する。30~40年前に比べると、アメリカへの輸出台数は大幅に減った。今の日本の自動車メーカーは、雇用を含めてアメリカに大きな貢献をしているのだ。

>>最新キャデラックに乗って”今のアメリカ”を体感[画像ギャラリー]

そして「日本のユーザーはアメリカ車を買わない」という見方も不可解に思える。

日本のユーザーは輸入車に寛容で、ドイツ車はフォルクスワーゲンからメルセデス・ベンツまで、「日本車よりも上級のクルマ」と受け取られている。日本の自動車市場は開放的だから、アメリカ車が売れないとすれば、ユーザーの共感を得られるクルマ造りをしていないからだ。

しかもアメリカ車の代表とされるフォードは、2016年に正規輸入が日本から撤退した。これではフォード車が欲しくても購入できない。今は正規輸入のアメリカ車は貴重な存在で、GM(ゼネラルモータース)のキャデラックとシボレー、FCA(フィアット&クライスラー)のジープ、電気自動車のテスラのみになる。

そこでGMのキャデラックXT5クロスオーバーを改めて試乗して”今のアメリカ”を体感してみることにした。

ボディサイズはランクルプラドとほぼ同等

キャデラックはアメリカ車の高級ブランドで、今はセダンのATS/CTS/CT6に加えて、SUVのXT5クロスオーバーとエスカレードを輸入する。

XT5クロスオーバーは2017年10月に発売された設計の新しい車種で、プラットフォームも同様だ。超高張力鋼板、レーザー溶接、構造用接着剤など比較的新しい技術を使ってボディを造り込み、車両重量は1990kgとしている。この数値は決して軽くないが、XT5クロスオーバーの前身となるキャデラック SRXクロスオーバーに比べると90kg下まわる。比率に換算すると4%ほどだが軽量化された。

エンジンはV型6気筒3.6リッターで、ターボなどの過給器は装着していない。最高出力は314馬力(6700回転)、最大トルクは37.5kg-m(5000回転)となる。日本仕様のグレードは、ラグジュアリーと上級のプラチナムで、エンジンは前述の1種類、駆動方式も4WDのみだ。

外観はフロントマスクを見るとグリルがワイドで、ヘッドランプは切れ長に仕上げた。縦長のLEDシグネチャーライティングも備わり、顔立ちは個性的だ。

ボディサイドは、ウインドーの下端を後ろに向けて大きめに持ち上げた。いわゆるウェッジシェイプで躍動感を演出するが、ボディ後端のピラー(柱)を太めにデザインしたこともあり、後方視界は良くない。

ボディサイズは、全長が4825mm、全幅が1915mm、全高が1700mmとなる。大きさはトヨタ ランドクルーザープラドと同程度だが、全幅は少し広い。

最大の欠点は”左ハンドルしかない”こと

XT5の決定的な欠点は、ほかのキャデラックと同様、左ハンドルしか選べないことだ。大きな交差点を右折専用車線から曲がる時など、目の前にも対向車線の右折車両がいると、左ハンドル車では直進してくる対向車がほとんど見えない。また片側1車線の道路で、路上駐車しているバスやトラックを追い抜く時も、左ハンドル車では対向車線が見えにくい。

このほかにも左ハンドルには、安全に影響する不都合が多い。そのために今は輸入車も右ハンドルを売るのが常識になったが、キャデラックは左ハンドルのみだ。特にXT5はボディがワイドな左ハンドル車だから、運転するのに気を使う。これも購入しにくい理由のひとつだ。

V6 3.6リッターの走りは良い意味で”アメリカン”

試乗を開始するとV型6気筒エンジンは古典的な印象だが、実用回転域を重視して、直線的に吹き上がるから扱いやすい。車両重量が約2トンに達するから、加速力に余裕があるとはいえないが、パワー不足は感じない。ATは8速だから、フルに加速する時は高回転域を維持できる。

操舵感はアメリカ車の典型だ。直進状態からハンドルを回し始めた時の反応が鈍い。古い表現をすれば、ハンドルのアソビが大きく、直進時にハンドルを左右に少し振っても車両の向きが変わらない。そこからさらに切り込むと、車両の進む方向が変わり始める。

このセッティングは、路面状態が良好とはいえない高速道路を、長時間にわたって直進する使い方に適する。少々ルーズな姿勢で運転席に座り、ハンドルを大雑把に操作をしても、直進状態からの反応が鈍いから挙動を乱しにくい。

その半面、両脇を引き締めた正しい姿勢で運転席に座り、正確な操作をしようすると、曖昧さが気になる。自分が真面目に運転しているのに、クルマにはそれが伝わらず、終始テキトーに動いている感じがする。

大径20インチタイヤの乗り味もおおらかな印象

乗り心地も同じような印象だ。

足まわりは柔らかめの設定で、操舵するとボディが大きめに傾くが、少し大きなデコボコを乗り越えるとバタつき感が生じる。この時は床面もブルブルと振動した。

試乗車は上級グレードのプラチナムだから、タイヤは大径20インチ(235/55R20)を装着している。銘柄はコンチネンタル・コンチクロスコンタクトで、指定空気圧は前後輪ともに250kPaだ。

少し粗い乗り心地には、20インチタイヤも影響しているだろう。足まわりの設定に対して、タイヤのスポーツ性が強すぎる。18インチ(235/65R18)を装着したラグジュアリーの方が、バランスは良さそうだ。

高級ブランドと考えると質感にはやや不満が残る

内装の造りは高級ブランドのキャデラックとあって不満はないが、特に上質ともいえない。

プラチナムにはリアカメラミラーシステムが装着され、ルームミラーの部分が液晶になり、車両の後部に装着されたカメラ映像を映す。荷物をたくさん積んだ時でも後方視界が確保されるが、液晶だから鏡と違って目の焦点移動が必要だ。前方を注視しながらルームミラーで後方をチェックすることは難しい。ユーザーによって視認性に個人差があるから注意したい。

前席のサイズは十分に確保され、座り心地は腰の近辺をしっかりと支える欧州車風だ。

後席は背もたれが少し平板でボリュームに欠ける。身長170cmの大人4名が乗車して、後席に座る乗員の膝先空間は握りコブシ2つ分だ。狭くはないが、三菱 エクリプスクロスなど国産ミドルサイズSUVと同程度。ボディの大きさを考えると、後席の足元空間はもう少し広げて欲しい。

装備は比較的充実しており、プラチナムにはレーダーとカメラをセンサーとして使う緊急自動ブレーキが装着される。歩行者を含めて衝突の危険が迫ると警報を発して、緊急自動ブレーキも作動させる。同じセンサーを使って、車間距離を自動制御できる全車速追従型クルーズコントロールも採用した。

価格はラグジュアリーが6,685,200円、プラチナムが7,549,200円だ。この価格帯に該当するSUVは、輸入車であればメルセデス・ベンツ GLCが挙げられる。全長が4660mmのミドルサイズSUVで、エンジンは2リッターのガソリンターボと、2.2リッターのクリーンディーゼルターボを用意している。

国産車ならレクサスの上級SUVとなるRX300で、4WD・Fスポーツの価格は606万1000円だ。エンジンは2リッターのターボだが、動力性能はXT5と同等になる。

アメ車だが欧州志向が強い昨今のキャデラック

キャデラックの過去を振り返ると、1950年代から1960年代の前半には、豊かなアメリカの象徴として黄金期を築いた。しかし1970年代に入るとオイルショックに見舞われ、ほかのアメリカ車と同様、サイズダウンを余儀なくされた。それでも持ち味は豪華路線だったが、ユーザーが高齢化したこともあって業績が伸び悩み、2000年頃からブランドの立て直しを開始している。

この方向性が欧州指向であった。内外装のデザインはスポーティな欧州車風で、運転すると、そのルーズさにアメリカ車であることを実感する。運転感覚は少し荒れたフリーウェイに照準を合わせた。外観は欧州車風でも、運転操作に忠実に反応することはないから、大雑把な操作をしても挙動が変化しにくい。アメリカで使うには都合の良いクルマだろう。

しかし日本のユーザーは魅力を感じにくい。キャデラックXT5も外観は欧州車風だが、操作感覚がルーズだから、走りの質がいまひとつと受け取られてしまう。無国籍的な印象が伴い、日本のレクサスにも少し似ている。

メルセデス・ベンツ/BMW/アウディは、プレミアムブランドの歴史が長く、それぞれが持ち味を確立させた。キャデラックも歴史は古いが、2000年頃にブランドの再構築をしたから、実質的に振り出しに戻ってしまった。このあたりが1989年に北米でスタートしたレクサスに似ている。

日本でキャデラック XT5クロスオーバーが似合うのは、アメリカ車のルーズな運転感覚が好きで、なおかつ充実した安全装備などを求めるユーザーだろう。かなり狭い顧客層になってしまう。

従って日本のユーザーから見ると、キャデラックはもう少し旧来のアメリカ車らしさを強めた方が魅力を感じやすい。内装にメッキを増やし、運転感覚のルーズさも強める。それがオフロードSUVのシャシーを備えたキャデラック エスカレードともいえるが、全長が5195mm、全幅が2065mmのボディは、日本で使うには非現実的だ。エスカレードの持ち味をXT5のサイズで再現したような車種があると良い。

この日本でアメ車を売るためにすべきこと

それにしても、今の状態でアメリカ車を日本で大量に売るのは難しい。

仮にアメリカのメーカーが日本の市場に本気で取り組むなら、まず日本におけるアメリカ車のイメージを探らねばならない。これは昔と変わらず、大排気量のV型8気筒エンジンを積んだシボレー カマロ、フォード マスタング、ダッジ チャレンジャーなどのスポーツクーペだ。

大雑把なデザインもアメリカ車では魅力に繋がり、今のキャデラックのような欧州指向は逆効果になる。つまり内外装は質素なスタンダードモデルで十分。大きなボディと大排気量エンジンを低価格で提供できればそれで良いのだ。最も価格の安いグレードには、299万円といった格安な値付けが求められる。

そういうクルマを中高年齢層にはノスタルジー、若い人達には新しいムーブメントとしてイメージを根付かせる。販売網が充実するヤナセが関連会社を新たに作り、アメリカのサポートも得て、一種のベンチャーとして立ち上げると面白い効果が期待できるかも知れない。

最近はかつて人気の高かったミニバンも売れ行きが下がり、国内需要が曲り角にきている。輸入車も販売の主力だったディーゼルが逆風にさらされて陰りが見えてきた。アメリカ車がチャレンジをするには、良い時期だと思う。

[Text:渡辺 陽一郎/Photo:茂呂 幸正]

キャデラック CT5クロスオーバー プラチナム[4WD] 主要スペック

駆動方式

4WD

ステアリング位置

JC08モード燃費

ーー

価格(消費税込)

7,549,200円

全長

4,825mm

全幅(車幅)

1,915mm

全高(車高)

1,700mm

ホイールベース

2,860mm

車両重量

1,990kg

乗車定員

5人

エンジン種類

V型6気筒 DOHC ガソリンエンジン

排気量

3,649cc

最高出力

231kW(314ps)/6,700rpm

最大トルク

368Nm(37.5kgm)/5,000rpm

トランスミッション

8段AT

燃料

無鉛プレミアムガソリン

タイヤサイズ

(前後)235/55R20

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渡辺 陽一郎
筆者渡辺 陽一郎

1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を心がけている。記事一覧を見る

樺田 卓也 (MOTA編集長)
監修者樺田 卓也 (MOTA編集長)

自動車業界歴25年。自動車に関わるリテール営業からサービス・商品企画などに長らく従事。昨今の自動車販売業界に精通し、売れ筋の車について豊富な知識を持つ。車を買う人・車を売る人、双方の視点を柔軟に持つ強力なブレイン。ユーザーにとって価値があるコンテンツ・サービスを提供することをモットーとしている。

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