BMW 318ti 試乗レポート
- 筆者: 河村 康彦
- カメラマン:小宮岩男
ネーミングの変更とともに、専用のデザインとテクノロジーが注がれた。
『コンパクト』という愛称を表に出すと“安物”と受け取られかねないということか、なぜか日本市場では『ti』なる呼称のみを使用する3シリーズのハッチバックモデル。従来型=初代モデルは、当時のセダンよりも一世代前のセダン用シャシーを用いることで開発/生産の合理化を図ったが、今回の新型では現行 E46型セダンの骨格がベース。それどころか、ヨーロッパではセダンやクーペに先駆けること一足先に、“バルブトロニック”採用の新開発4気筒エンジンが積まれることにもなった。あえてセダンやクーペなどとは異なるフロントマスクを採用するあたりにも、BMWの「単なる派生バージョンではなく、独立したモデルとして認知して貰おう」という意気込みが感じられる。
実用域で扱いやすいエンジンフィールと、BMWらしいハンドリングが魅力だ。
日本仕様のtiは、1.8Lの『316ti』が右ハンドルのAT仕様で、2Lの『318ti』が右ハンドルのATと左ハンドルのMT仕様。「BMWは4気筒モデルの最上級モデルを『318』と言い、ベーシックな6気筒モデルを『320』と呼ぶ」とのことだが、それにしても車名と排気量がリンクをしないのは、ワカリヅライことこの上ない…。
無段階の可変バルブタイミング&リフトを実現させた新エンジンは、明らかに実用域での扱いやすさを最優先させたユニット。中でも3000rpm台でのトルクの厚み感が特徴的で、この領域ではなかなかの加速感を味わわせてくれる。ATが5速化されたことも、もちろん走りにはプラスの影響を与えている。日本で使うにも違和感のないプログラムを持ち、シフトショックも少ないこのATは何とGM社製と言う。
セダンよりも全長が20cm以上短いこともあってか、BMW車の中では最も“着る感じ”が強いのがこのクルマ。ハンドリングは相変らずのBMWフィールで、4つのタイヤの能力をバランス良くきっちりと引き出すことの出来る感覚が嬉しい。
実用性は確かにセダン未満だが、初代に比べれば後席の居住性はグンと向上している。
新型3シリーズtiのインテリア・デザインは、もちろんセダンのそれがベース。よりスポーティなイメージを演出するためか、3本スポークのステアリング・ホイールが与えられたりはしているが、基本的には「フロントシートから前を見る限り」、その雰囲気はセダンのそれと変わるところはないと言って良い。
ただし後席は“緊急用”とまでは言わないものの、やはりセダンのそれよりは少々テンポラリー風の扱いが強いことが否めない。特に座った際の、シートのクッション性の乏しさは、セダンのそれとは明らかに異なるもの。また、後席乗降性を確保するためにドアが非常に大きく、その開閉にはむしろセダンよりも遥かに大きなスペースを必要とすることも覚えておきたい。
後席使用時で310Lというラゲッジスペースは、多くのFFライバル車と比べると小さい印象が否めず。横幅が意外に小さいし深さもさほどではないのは、FR車ゆえの弱点だ。
6気筒ファンの見方も変わる4気筒の出来栄え。リーズナブルな価格も見逃せない。
後席にゲストを招く機会などは稀。けれども、やはり『BMW』の称号には憧れる…という人にとって、318iよりも50万円以上も安い318tiは確かに魅力的だろう。「BMWといえば6気筒エンジン」という意見を持つ人もいるかも知れないが、そんな人もこのクルマを食してみれば見方が変わるはず。4気筒ユニットであってもスムーズさやトルクの演じ方はさすがという印象。ちなみに世界初のテクノロジーである“バルブトロニック”は、出力アップよりも燃費の向上を重視したディバイスと言う。
問題はルックス。確かにtiのデザインは新しさを主張しているかも知れないが、ぼくなどは単純に「この顔ならばセダンと同じ方が良かったのに」と、そう思ってしまうのだが…。
ところでBMWの場合、MTのフィーリングも素晴らしいのは知る人ぞ知るところ。となれば、316tiにもMT仕様が欲しいし、318tiのMTが左ハンドルのみなのも解せない。
この記事にコメントする